ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社(以下、ソニー)が提供する”スマートスイミングレッスン”をコナミスポーツクラブ(以下、コナミスポーツ)が今年4月に導入し、約半年が経過した今、コナミスポーツにおける導入店舗数は加速度的に増え、キッズスクール事業の柱であるスイミングレッスンに大変革が起きている。生徒・保護者・運営者の三方良しとなるサービス導入後の実績について、フィットネス業界にいち早くお届けしたい。

運動塾デジタルノートを推進する2つの社会的背景

  • コナミスポーツ株式会社
    スクール事業部 部長
    水原康賀氏

コナミスポーツが展開する『運動塾デジタルノート(以下、デジタルノート)』とは、読んで字の如く、従来の紙からスマホやタブレットにスクール指導の業務を移行していくプロジェクト。その第一弾としてスイミングスクールから取り組みを開始した。デジタルノートの根幹を支える技術がソニーの提供するスマートスイミングレッスン。AIや映像技術が結集した、スイミングレッスンにイノベーションを起こすソリューションである。

コナミスポーツがこの領域に力を入れている背景のうちの1つは、学校教育のDX化が進んでいること。生徒は1人1台タブレットなどの端末を持ち、デジタル教科書を使い始めている。デジタルネイティブ世代の子どもたちにとっては、紙よりもむしろ各デバイスで学ぶことに慣れているのだ。

もう1つは、生活様式の変化。コロナの影響で、スポーツクラブは一時期完全クローズを余儀なくされたが、それが緩和された後も、ウイルスの蔓延を防ぐべく、プールの保護者観覧スペースの入場を制限する必要があった。

「保護者の皆さまは、自分の子どもたちの成長を確認したいものです。しかし、コロナの影響で、それを目の前で見ることが難しくなってしまいました。これらの社会的変化を鑑みて、我々はデジタル化へ大きく舵を切ることになったのです」とスクール事業部の部長を務める水原氏は説明する。

コナミスポーツが大切にしてきたスクール運営のノウハウ

コナミスポーツは、前身から含めたルーツは1973年にまで遡ることができ、2022年で創立49周年を迎える。

スイミングスクールを発端として事業を開始し、多くの子どもたちに運動の楽しさを教えてきた実績がある。ノウハウの核となる部分は「ほめる型指導」だ。それに「段階別指導」を組み合わせることで、子どもたちの能力ややる気を伸ばしてきた。

「学校教育では、1年生は1年生の勉強内容しか教わりません。そうすると、勉強内容に退屈してしまう子や、逆についていけなくなってしまう子が出てきてしまう恐れがあります」水原氏はさらに続ける。

「一方で我々は、まず一人ひとりの能力に合わせてクラス分けを行います。次に少し頑張ればできることに挑戦していることを称賛します。そして取り組むことへの意欲を引き出しつつ技術的な指導も並行して行い、できるようになるという感激を与え、それに対してさらに称賛するというサイクルを回しています(図参照)」

コナミスポーツにて導入実績70店舗を突破

ところで、長年培ってきた子どもの指導のノウハウに加え、オペレーションを確立してきたと考えるが、DX化によって生じる社内のアレルギー反応はなかったのだろうか?

「もちろん、デジタル化の流れにおいていかれないようにすることは大切ですが、最も重要なポイントだったのは、我々のスクール事業の根幹部分にある「称賛」「意欲」「感激」のサイクルを、デジタルでも回せるかどうかでした。スマートスイミングレッスンを活用すれば、従来の紙での運用以上に、子どもたちに自分の成長を楽しんでもらえるようになることがわかったので、導入を決めました」水原氏は、このように答えた。

ただ、やはりデジタルノートをしっかり運用していくためには、現場で指導するコーチ陣の理解を深めることが必要だった。

「2ヶ月間しっかり運用テストを行い、その壁を乗り越えました。コーチ陣にもデジタルノートを使ってもらうなかで、デジタル×指導の融合によって、サービスが飛躍的に改善するということを理解してもらうことができました」と水原氏。

うなずくところばかりだが、長期の研修期間を設けているにも関わらず、正式導入開始からわずか8ヶ月で70店舗以上へ導入が完了しているというスピード感に驚きを隠せない。

「導入に際しては、ハード面でのカメラの設置を始めとしてタスクは様々ありますが、ソニー様がしっかりとサポートしてくれるので、スムーズに導入が進みました。導入後も、日進月歩でテクノロジーが進化していくなかで、頻繁にアップデートしてくださることが嬉しいですね。また、水中での撮影を実現する場合には高い技術力と膨大な設備投資が必要です。スポーツクラブにとって大きな負担となるところ、ソニー様のスマートスイミングレッスン誕生のおかげで、大幅に初期コストを抑えて実現することができました。本当に感謝しています」と水原氏は明るい表情で話す。

スイミングレッスン×DXによって生まれる付加価値

「ほめる型指導」と「段階的指導」を大切にしてきたコナミスポーツのスクールは、デジタルノートの活用でどのように進化を遂げたのだろうか?

結論を先に言うと、関係当事者全員がメリットを享受できるようになった。

まずは子どもたち。自分の泳ぎを映像で確認することができるため、上達スピードが格段に上がった。そうすると、先の図に示した指導サイクルも加速することにつながり、スマートスイミングレッスン未導入のスイミングスクールと圧倒的な差を生むことができる。実際に泳ぐのは週1回、1時間のスイミングレッスンのときのみでも、ほかの時間を使って映像を振り返ったり、コーチからのフィードバックをアプリで確認することができるので、差が生まれるのは当然と言えるだろう。

「子どもたちのなかには、自分の泳いでいる映像を見ても、『これは私じゃない!』と言う子もいます」と水原氏は笑いながら言う。それくらい、自分が想像している姿と実際に泳いでいる姿との間にギャップがあるということだろう。客観的に映像を見ながら、このギャップを埋めるためにはどうするべきかというアクティブラーニングの機会を生み出しており、教育の幅が広がっている。

それと並行して熟練のコーチからも指導を受けることで、以前よりも進級しやすくなり、その基準も明確になった。「次の級に進むためには、これができるようになりましょう」というように、予習用の動画も送ることができるため、子どもたちのモチベーションも高まっている。

次に、保護者目線。自分の子どもが泳いでいる姿を映像で確認することができるようになり、例えば遠方に暮らすおじいちゃんおばあちゃんも、孫の成長を見られるようになった。保護者にとって、こんなに嬉しいことはないだろう。

また、家族団らんの時間に、子どもたちと一緒にデジタルノートを見ながら会話する機会が増えたことで、プールにいないときでもスイミングが家族全員にとって身近な存在になった。

最後はコーチ陣。これまでは進級ノートの作成を手書きで行っていたが、この業務にかなりの時間を要していた。

「必要な作業ではあるのですが、この部分をデジタルの力で簡素化することで、より多くの時間を水泳指導に割くことが可能となりました。そのうえで、映像を見せながら指導できることで、コーチが伝えたかったことが子どもたちに伝わりやすくなり、指導そのものの効果もアップしています」と水原氏は胸を張る。まさに、百聞は一見に如かずと言ったところだろう。

スクール事業の収益アップがスムーズに実現したわけ

収益性改善のため、値上げ戦略に舵を切るスポーツクラブも多い。しかし、競合との価格優位性を失ううえに、何もサービスに変化がないのに価格だけ上昇してしまっては、会員にも受け入れられにくいのではないか?

そうしたなか、コナミスポーツはデジタルノートの提供開始のタイミングで、一律にスクール会費をアップ。これは、スイミングスクールに入会すると、デジタルノートを全員が使えるようになるということを表す。

今まで述べてきた付加価値が、導入店舗の増加によって、導入を予定している他の店舗の会員にも伝えやすくなり、ほとんどの会員が値上げ後も納得して継続してくれている。むしろ満足度が高まり、コロナ禍以前よりも会員数が増える可能性まで見えてきている。

コナミスポーツが見据えるデジタル戦略

コナミスポーツは今後も、デジタルノートを広げていく。ソニーはテニススクールやゴルフスクールにおいてもDXソリューションを持っている。今後はコナミスポーツで提供している別競技のスポーツスクール事業においても、展開の可能性を模索していく。

「理想は、デジタルの活用による満足度の高い口コミが増えていくことですね。いわば、人が人を呼ぶという状態を生み出すことです。それはスイミング以外のスクールでも同じですので、積極的に取り組んでいきたいです」と水原氏は述べ、DX化の横展開を目指している。

とは言いつつも、まずは今走っているスイミングスクールへのスマートスイミングレッスン導入へ注力していく。2023年度末までに約100店舗近くまで増やしていく方針は変わらない。最後に水原氏は、力強いメッセージを残してくれた。

「スイミングスクールの在り方は、DXで間違いなく変わります。これだけは断言できます」

この波に乗り遅れるなかれ。