フィットネスビジネス編集部が、2023年を大胆に予測

コロナ禍によって、生活者・勤労者の価値観や行動様式が急速に変化してきているため、フィットネスクラブのマーケティングミックスも、それに対応したものにしていく必要があろう。着目すべきファクトは何か?それをどう解釈し、どんな対応をすべきなのか?編集部の考えをまとめてみた。

古屋武範
株式会社クラブビジネスジャパン代表取締役
『Fitness Business』編集長

 

進化する、人とデジタルのいい関係

まずレスミルズインターナショナルによる『Global Fitness Trend Report 2021』(※対象者は、日本人1,778人を含む世界15か国12,157人のフィットネスユーザー)によると、次の3点が指摘されていた。

・日本のフィットネスユーザーの69%が「(フィットネスの)初心者」であると思っている。
・初心者がフィットネスクラスに求めるものの中で一番は、「インストラクターのクオリティ」である。
・ハイブリットフィットネスは、今後も継続する。

米MINTEL社や欧州FIBO2022などの調査でも、似たような指摘がされていた。

また、ACSMが毎年4,500名のフィットネスプロフェッショナルに次の年のトレンドを訊いている調査※では、直近の5年間に常に上位にランクインしているのは、「ウェアラブルテクノロジー」「フリーウェイト」「自重トレーニング」の3つである。ちなみに、直近の調査では、上位が、「ウェアラブルテクノロジー」「ホームエクササイズジム」「アウトドアでの運動」だった。

さらに、もう少し視点を広げて、野村総合研究所(NRI)が毎年実施している「生活者1万人アンケート」を見ると、以下のような傾向がフィーチャーされていた。

・コロナ禍は、「人づきあい」を希薄化させる方向に働いた
・「変化・挑戦」より「安定」を求める傾向が顕著に。強まる「世間体」意識・おうち時間と自己投資にお金をかける傾向が顕著に
・生活満足度はコロナ禍で上昇。最も「幸せ」実感が高いのが「子育て期の女性」。「おひとりさま」は「幸せ」実感が低い傾向がみられる。生きがいの重点を「家族」に置く人が最も生活満足度や幸福度が高い。「仕事・家族両立派」で生活充実度は最も高い
・安くてそれなりの品質は当たり前となり、むしろその先の満足感を求めるようになってきている・ライフスタイルへのこだわりは再び伸長へ

5つの「」に、着目しよう

01 Online(オンライン)

ユーザーが、どこにいようと、エフォートレスで、最適な指導が受けられるように、ハイブリットでサービスを提供できるようにしていくことが求められよう。24時間、いつでも同一時間帯にユーザーが受けたいクラスが選べるようになっていることが理想と言える。

住友生命VitalityやSweatcoin(歩数トラッカー)のようなデジタルテクノロジーを駆使したサービスも徐々に浸透していくことだろう。フィットネスクラブといった枠を超えてユーザーが集い、好きなインストラクターやコンテンツを楽しめるフィットネス版の共創プラットフォームも構築が進むだろう。

02 Offline(オフライン)

運動習慣をつけたいと望むユーザーが多い日本において、オンラインだけのサービスで、それを実現し、しかも事業としても成立させていくことは、なかなかハードルが高いだろう。コロナ禍でステイホームを余儀なくされ、オンラインでコミュニケーションする生活を強いられた生活者・勤労者は、人恋しくなっているのではないか。リアルの価値は、以前よりも高まったのかもしれない。コロナの収束とともに、「人づきあい」を求める層も顕在化してくることだろう。

そういう意味では、情緒的価値や社会的価値を備えたコミュニティ感を醸成していくことが求められるだろう。プログラムとしては、スモールグループ形式で、ファンクショナルな自重トレーニングを取り入れたものが拡がる可能性が高い。

03 Outdoor Activity(アウトドア アクティビティ)

ホームフィットネスももちろん広がったが、カーディオ(心肺持久力)系の運動は、屋内より屋外のほうが気持ちいいと考える層が一定数いる。コロナの収束と共に、ウォーキングやランニング、トレッキング、トレイルラン、キャンプ、公園や森林、海などのアウトドア環境でのフィットネスも参加者が増えていくことだろう。フィットネスクラブも、イベントとして、こうしたフィットネスアクティビティを取り入れていくようになるだろう。

04 One On One Training(ワン オン ワン トレーニング)

日本のフィットネスユーザーの7割近くが自分のことをフィットネスの初心者だと考えているのなら、よりパーソナルな対応が求められよう。パーソナルジムはもちろん、総合業態のフィットネスクラブでも入会者に対して一定期間スクール形式で、クラブの保有するアイテムやサービスについて体感しながら理解を深めつつ、運動の習慣化やクラブライフの楽しさを享受できるようにサポートしていくことが求められよう。また、グループエクササイズにも、「グループパーソナル」のような個々人に最適化された指導サービスのキメ細かさが求められるようになっていくことだろう。

05 Out of the Box(アウト オブ ザ ボックス

既存のフィットネスユーザーだけを見て、それに対応するマーケティングミックスを続けているだけでは、在籍会員を増やして、フィットネス参加人口を増やすことはできないだろう。業界人バイアスを外して、フィットネスの未顧客やライトユーザーが生活の中でしているちょっとした健康行動や健康習慣に寄り添い、それをより体験価値高く提案、提供できるような取り組みをしていくことが求められよう。「フィットネスクラブ」を再定義して、「ウェルネスクラブ」として捉え直し、未顧客やライトユーザーが求めるサービスを開発していくことが求められる。リコンディショニングやリラクセーションといった価値も提供できるようにサービスをリデザインしていくことが求められよう。