コロナ禍の終息が期待された2022年だったが、新種のオミクロン株の感染力により、第6波、第7波が襲来。フィットネスクラブやスタジオの顧客の戻りは期待より遅れ、インストラクターにとっても、厳しい環境が続いた。そんな中、芦田天文子さんは、これまでフィットネスに参加していない97%の人に、フィットネスを知ってもらう活動を積極的に展開。その機会を、仲間のインストラクターとも共有して活動の幅を広げた。地域におけるフィットネス啓発をリードし、コミュニティを通じた課題解決型の新しい働き方を提案している。
フィットネスを必要としている人に知ってもらいたい
2022年、コロナ禍が長引き、フィットネスクラブやスタジオへのお客さまの戻りが遅れるなか、芦田天文子さんは、積極的に地域社会にフィットネスを届ける活動を推進した。一つは、東京都スポーツ推進部が主催して実施されたイベント「アーバンフィットネス」への参画。3月にKITTE丸の内、10月に立川スプリングフィールド、11月に東京駅構内で開催された、体験型イベントである。
芦田さんは、KITTE丸の内のイベントでは、東京都商工会議所の健康経営エキスパートアドバイザーとして、体組成測定と、健康アドバイスを担当。10月の立川と、11月の東京駅のイベントでは、フィットネスプログラム体験の企画をプロデュースするとともに、プログラム指導にもあたった。ここでの学びについて、芦田さんはこう話している。
「このイベントで感じたことは、一般の方々は、私たちが思っている以上に、フィットネスのことを知らないということです。ヨガについても、すでに多くの人が知っていると思いがちですが、実際には、『ヨガ』という言葉は知っていても、『ヨガって何するの?』という方も多い。今回、体験プログラムの名称を『腰痛改善』『ストレス解消』『脂肪燃焼』として打ち出したところ、通りすがりの方が数多く参加してくださいました。フィットネスを知らないものの、フィットネスを必要としている人が多いことに改めて気づきました」
立川では、30分のクラスを1日6本ずつ2日間開催。東京駅では、15分のクラスを1日12本ずつ2日間開催。
立川は、会場がショッピングセンターだったことから、ファミリー層が多く参加し、東京駅では、通りすがりの旅行者やビジネスパーソンが数多く参加した。特に、人気が高かったのは「脂肪燃焼」プログラムだったという。「腰痛改善ではピラティス、ストレス解消ではヨガ、脂肪燃焼ではエアロビクスやラテンエクササイズをしましたが、特に脂肪燃焼は人気で、結果的に多くの方にエアロビクスを楽しんでいただく機会となりました」
もう一つ、芦田さんが2022年に取り組んだのが、9月16日(金)~18日(日)に開催された『国際スポーツ&ウェルネスウィークエンド』である。芦田さんがエリアアンバサダーとなり、「千葉フィットネスコミュニティ」のフィットネス指導者仲間とともに、無料ウェルネス体験クラスを企画、実施した。
まず提供する場所を確保するべく、千葉フィットネスコミュニティメンバーの中で、施設を持っている人に声をかけ、北柏のボクシングジム「Roots」(中島貴志さん経営)、千葉駅のコンディショニングジム「Style Up Relations」(田野正洋さん経営)、みつわ台のストレス解放ジム「MoMo」(村井真紀さん経営)、BESTSTYLE FITNESS海浜幕張(浅原聖さん 支配人)の協力を得た。
その後、無料ウェルネス体験クラスを提供してくれる仲間を募り、スケジュールを作成。プロモーションのチラシを作成して、スタジオメンバーや地域への声掛け、SNSからの発信を、協力し合いながら進め、5施設で実施した全19クラスは、満員での実施となった。
「このイベントで感じたことは、運動したいと思っている人は多いのに、何らかの理由で、参加できないと思っている人も多いということです。無料体験にすることで、『運動したい』という気持ちを叶える場所が身近にあることを伝えられる機会になりました。これをきっかけに入会された方もいたことは、特に嬉しかったです」
このほかにも、フィットネスに参加していない97%の方々に、フィットネスを届ける活動を多方面に拡げている芦田さん。2016年9月から続けている「佛法寺運動教室」では、毎週水曜日の早朝に、地域の人が1回500円で参加できるクラスを提供している。地域のインストラクター仲間である、西山崇子さんの骨盤底筋群のエクササイズ、内田利子さんのヨガ、そして芦田さんのストレッチと体幹トレーニングなどを提供。佛法寺住職の奥さまの「お寺を地域の方々の集いの場にしたい」という気持ちに応え、確実にコミュニティが育ってきている。
参加者同士の絆もできており、しばらく欠席が続く人のところには、誰かが様子を見に行くなど、地域の見守りネットワークにもなっている。千葉県浦安市では、男性を中心としたシニアグループAAnetの活動もサポートしている。このコミュニティは、有名企業を退職した方々を中心とした20年ほどの歴史がある活動で、約100名のメンバーが所属し、部会に分かれて活動している。「男の手料理」「IT」「金融」「ウェルネス」などの部会があり、縁あって、芦田さんは2019年からこのウェルネス部会を担当。担当して間もなくコロナ禍に入ったものの、「IT」部会の方々がオンライン配信システムをいち早く構築。
2020年4月には、オンラインレッスンがスタートし、毎週火曜日朝9時からの運動指導は途絶えることなく、これまでに100レッスン以上を配信するに至っている。そのほかにも、東京商工会議所が認定している「健康経営エキスパートアドバイザー」や、企業フィットネスに携わるなかで取得した「健康運動指導士」も指導の幅を拡げ、フィットネスを本当に必要としている人とのタッチポイントを拡げてきている。
インストラクターとして課題解決をするために
インストラクターとして活動の場を多方面に拡げる芦田さんだが、インストラクターになったきっかけは、新卒で入社した会社が法人会員になっていたフィットネスクラブに通い始めたことだったという。学生時代から、運動好きだった芦田さんは、日々のデスクワークに運動不足を感じ、会社が終わると毎日フィットネスクラブに通うようになっていた。やがて「身体を動かす仕事のほうが向いているかも」と退職。自宅近くにオープンしたTIPNESS 西葛西店でアルバイトをスタートした。
エアロビクス養成コースを卒業すると、TIPNESSの新規店舗での社員募集があり、24歳で就職。その後8年間、スタジオ担当社員として活動した。その後出産を機に3年間現場を離れていたが、再び運動がしたくなり、間もなく地元のクラブでフリーインストラクターとしての活動をスタートさせた。ここで芦田さんは、個人事業主で活動するインストラクターの仕事における構造的な問題に気がついたと話す。
「フリーインストラクターの場合、自ら求めないと教育を受ける機会がなく、また、フィットネスクラブの経営を理解できていないことで、立場の主張がひとりよがりになってしまっていると感じました。特に、当時の千葉エリアでは、他のインストラクターと交流する機会が少なく、環境の変化や業界のトレンドなどにも気づかないままに、フィットネス後進エリアになってしまうことが危惧されました」
そうして、芦田さんは都内にもチェーン展開しているメガロスのオーディションを受け、スタジオコラボレーターと呼ばれる教育チームに入り、情報入手経路をつくると、地元のインストラクターに共有する機会もつくっていった。2016年にはトレーナーの五木田穣さん、平野修司さん、坂本孝宏さんと「千葉フィットネスコミュニティ」を発足。地域のインストラクター・トレーナーが広い視野で学べる機会をつくるべく、隔月で勉強会を企画。第1回目の「働き方事例発表」からスタートし、1周年記念の勉強会では、元スターバックスコーヒージャパンCEOの岩田松雄さんを招いて『ミッション』と題した講演会を開催。
現在までに登録メンバーは345人にのぼり、活発な情報交換が継続されている。千葉フィットネスコミュニティ勉強会からさらに理解を深めるための活動として、「メディカルトレーナー養成コース」(2019年、田野正洋理学療法士講師)、「ビジネスプランニング勉強会」(2021年、西根英一氏テキスト勉強会)、「マーケティング小宮塾」(2021年、小宮克巳講師)、「チバサロ」(2020年~)等を開催し、学習と実践の場でメンバーが切磋琢磨している。
自身では経営のことにも理解を深めるべく、FCM検定にも挑戦。2級から受け始め、2020年には、フリーインストラクターで初めてのFCM1級技能士に合格。経営者の視点から、インストラクターに向けた情報発信も行っている
インストラクターとして課題を解決する方法
芦田さんは、このように、インストラクターとして課題に気づくと、それについて理解を深めるべく試験に挑戦し、解決の糸口を見つけてきている。いつも実践している方法があるという。
「たとえば試験を受ける場合、まず過去問を受けます。当然、ボロボロの点数ですが、これによって何がわかっていないかが、はっきりわかります。次に、そのわかっていない部分のテキストを精読すると、知らない単語が出てきます。今度はその単語について、専門書をあさって理解を深めるとともに、業界識者の方々の話をききます。こうすることで、理論とともに、実践的な理解も深められます」
インストラクターとしての課題解決についても同じアプローチで、「まちに出て、世の中の人が持つ健康課題に、自身が応えられるかを試してみること」を勧めている。「たとえば、地域の公民館で健康教室を立ち上げるべく、チラシを貼って告知してみる。そうすると、来た方が思った以上に不健康だったり、姿勢が悪くて、対処の方法がわからないことに気づけます。わからない部分がわかることで、そこの理解を深めれば、課題が解決できるようになります。告知しても、人が集まらないとすれば、告知の方法がわかっていないことに気づけます。そこで、プロモーションやマーケティングの理解を深めることで、解決の糸口が見つけられます。この繰り返しです」
2022年は、フィットネス業界にとっても、インストラクターにとっても厳しい1年になったが、フィットネスクラブの外には、フィットネスを必要としている健康課題を抱えている人がたくさんいることに気づける機会ともなった。インストラクターとしては、このフィットネスに参加していない多くの方々の健康課題の解決に向き合っていくことで、まだまだ活躍の場は拡げられる。
過去問を解くように、課題解決にチャレンジすることで、わからない部分、できない部分が見えてくる。その部分の理解を深めることで、課題解決に繋げられる。芦田さんは、それを実践しながら、知見を共有し、インストラクターの活躍の場を共創している。