行動経済学の基本を理解するとともに、フィットネスクラブ経営に役立てる方法について紹介する本連載。第2回では、なぜフィットネスクラブで運動を続けることが難しいのか?について、ヒューリスティックとシステマティックをもとに説明したが、今回は同テーマを、「人間の思考のクセ」という観点から説明する。

人は無意識に時間軸でものごとを決定している

前回の記事(なぜフィットネスクラブでの運動は続けられないのか?①)では、人の意思決定プロセスとして、ヒューリスティックが使われることが多いことを説明した。ヒューリスティックは直感的で経験的であるとも示したが、このヒューリスティックを誘発するもののなかに、時間的選好というものがある。

時間的選好とは、人は不確実性の高い将来よりも、現在を重視するクセがあるということを意味している。ダイエットをしなければならないのに、目の前にあるケーキを食べてしまうのは、直感的に、スリムになった将来の身体 < ケーキを食べることの幸福の方という構造が作られてしまうことによるものと説明できる。これもヒューリスティックの1つで、フィットネスを続けることで得られる健康よりも、今日楽をして休む(ソファの上でゴロゴロする)ことを選択してしまうのである。

これは、フィットネスクラブを運営する人にとっても厄介な思考と言えるだろう。特に運動というと「学生の頃に長距離を走らされた辛いものだ」という記憶や、「過去にフィットネスクラブに通ったがダイエットに失敗してしまった」というような負の経験があると、このヒューリスティックがより使われやすくなっている。

■1年後の利益より今日の利益?

目の前の誘惑に負けるといった経験は、誰もが一度はしたことがあるだろう。行動経済学ではこれを現在バイアスとも呼ぶ。合理的な経済学の視点では、