株式会社ルネサンス(以下、ルネサンス)は、2017年より、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社(以下、ソニー)が提供する映像とセンシング技術を活用したテニススクール向けDXソリューション「スマートテニスレッスンシステム (以下、スマートテニスレッスン)」を導入。

映像やデータが、顧客の体験価値を拡張する可能性をスイミングスクールにも広げようと、2021年から同じくソニーが提供するAIと映像技術を活用したスイミングスクール向けDXソリューション「スマートスイミングレッスンシステム(以下、スマートスイミングレッスン)」の導入も開始した。これまでにルネサンスの全国の店舗に導入され、スクール指導と運営に革新をもたらしてきた。映像やデータが共有できるソリューションが加わることで、アクティブラーニングがお客さまにもコーチにも浸透し、指導にあたるコーチたち自身の体験価値の向上にもつながっている。

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    株式会社ルネサンス
    スポーツクラブ事業企画部 次長
    舘内祐二郎氏
  • テニス事業チーム 課長
    廣瀬 実氏(写真右)
    スイミング事業チーム 課長
    勝部久代氏(写真左)

スクール向けDXソリューションの導入が、
お客さまの体験価値を拡張する

ルネサンスがスクール向けのDXソリューションの導入に着手したきっかけは、スクール指導に新たな付加価値をつくれないかと模索していた時に、当時ソニーが一般向けに販売していた「スマートテニスセンサー」の活用に可能性を見出したことに始まる。

この「スマートテニスセンサー」のセンシング技術と映像技術を基に、新しいレッスン向けソリューションとして誕生した「スマートテニスレッスン」は、テニスラケットのグリップエンドにソニー独自開発のセンサーをとりつけて、映像とともにデータを可視化することで、ラケットのどこにボールが当たったか、ボールの速度・回転数などが記録され、映像とデータをセットでお客さまと共有でき、スイングやフォームの改善につなげられるもの。

当初は特別レッスンとして導入し、価値検証したところ、お客さまに好評だったため、すぐに通常レッスンにも導入すべくサービス設計を進めた。

「スマートテニスレッスン」の、通常レッスンへの導入に向けて大切にしたのが、全国のコーチたちとの合意形成。現スポーツクラブ事業企画部次長の舘内祐二郎氏は、全国のスクールをまわり、コーチ一人ひとりと目指したい世界観を共有していった。

「スマートテニスレッスンを導入する理由や、目指したい世界観を共有して『レッスンを変えるのではなく、これまで提供してきたレッスンの魅力をさらに高めるツール』であることを伝えていきました。テニスレッスンでは上達が実感しづらい面があるのですが、映像とデータがあることで、フォームや球筋が改善することが可視化できて、上達を実感いただく機会が増えます。指導では、お客さまの『できたを捕まえて、できたを繰り返せる』ことを大切にしていますが、これがしやすくなることで、コーチのモチベーションも高まり、スマートテニスレッスンの導入も一気に進んでいきました」

「スマートテニスレッスン」では、各ストロークのフォームや打球が映像とデータで可視化されることで、お客さまの気づきが増え、上達につながるという体験価値の向上が見られると共に、その映像とデータが、お客さまの端末に配信されることで、コート以外の時間や場所での体験価値も高められることがわかった。自宅で自身のフォームを映像で振り返れることでイメージとしても定着でき、結果としてレッスンでの体験価値がさらに高まることにもつながる。

2020年のバージョンアップでは、コート全体の映像が記録される4Kカメラが取り付けられ、コート上の動きも可視化されるようになった。これにより、ゲームづくりの指導にも活かせたり、ショット練習とゲーム練習での動きの違いなども確認できるようになった。お客さまへの指導の幅も広がり、さらなる価値提案につなげている。

アクティブラーニングで、
「教わる」から「課題を解決する」スクールへ

「スマートスイミングレッスン」の導入は、2021年からスタートした。ルネサンスとソニーは、テニスレッスンの進化を、スイミングレッスンにも応用できないかと考え、ルネサンス全面協力のもとソニーが開発を進めた。その当時の思いについて、スイミング事業チーム課長の勝部久代氏はこう振り返る。

「スイミングスクールは、プールという水のある環境で、デジタル機器との相性も悪く、DX化が遅れていました。2020年教育改革では、小学校でも1人1台タブレットが配られ、『アクティブラーニング』が導入されるなか、スイミングスクールもその動向に対応しないと、選ばれなくなるという危機感もありました。そこで、スクールでも子どもたちが、自分で課題を見つけ解決していける環境の実現を目指して、ソニーさんの開発に全面的に協力させていただきました」

「スマートスイミングレッスン」では、レッスン前にあらかじめ「お手本動画」の配信が可能になっており、事前に親子で予習・復習ができるようにすることで、仮にはじめての習い事であっても安心感を高めるとともに、予習・復習の習慣がつけられることで、生涯にわたっての学習能力を高めることにもつながる。また、そのほかにもスクールで泳ぐ姿が水中と陸上から撮影され、進級テスト時の映像はAIによって自動編集され、結果やコーチのコメントと共に生徒本人や保護者に届けられる仕組みとなっている。

映像やデータを介した指導によって、コミュニケーションの量、質、タイミングのすべての点が拡張されることにつながっていると、舘内氏は、その変化に注目する。

量の点では、映像やデータで状況が共有できることで、コーチが伝えたいことの伝わる量が格段に増える。例えばフォームを改善するとき、「腰をもっと落として」と伝えるだけでなく、映像で具体的に今の状態と、より効果的な身体の使い方を見せることで、認識がより共有され、確実な上達につながっていく。

質の面では、映像やデータが保護者と共有されることで、家族から褒められることも、より自己肯定感を高め、上達へのモチベーションにつながる。特に小さなお子さまの場合、保護者に褒められることが、何よりの自信につながり、そのスクールを継続する意欲が湧く。

また、タイミングとしては、スクールの時間以外にも、自分で見直して、次のレッスンに活かしたり、映像やデータをもとに、より専門性の高いコーチからアドバイスを受けられたりと、その可能性は無限に広がっていく。

 

アクティブラーニングが社内に浸透
コーチの体験価値も向上へ

各スクールのDXが進むことで、アクティブラーニングが、社内にも浸透している。

テニス事業チーム、スイミング事業チームともに、レッスンの映像を活かしたコーチ研修や育成が進められている。以前は、コーチ研修でも「教える、教わる」の関係だったが、DX化を進めるなかで、映像とデータをもとにしたアクティブラーニングが進み、自身で課題を見つけて解決していく学びが広がっている。具体的には、ルネサンス全体で表彰されるトップコーチの指導動画を全コーチと共有して、コーチ同士でその気づきをオンラインでディスカッションしたり、新人コーチの映像を先輩コーチが一緒に見ながら、改善点を見つけたりなど、指導現場以外の時間や学びの機会が増えている。

また、スイミングスクールの安全管理対策強化にも映像を活用しており、仮にスクール中にトラブルが起きてしまった際も、映像が残ることで迅速で的確な対応が可能になっているほか、防犯にもつなげることができ、コーチたちの信頼を守ることにもつながる。

さらに、こうしたDX化による業務改善と提供価値の向上は、コーチとしての働きやすさや、働きがいにもつながっている。「ありがとう」と言われる回数が格段に増え、感謝の言葉が増えることも、コーチとしてのやりがいや誇りにつながっているという。

AIも味方につけて
さらなる提供価値の拡張へ

先に紹介してきたスクール向けDXソリューションの導入から6年以上が経過し、膨大な映像やデータが蓄積されている。今後、この膨大なデータをソニーが持つAI技術で分析し、スクール運営にさらに活かしていくことが計画されている。

テニス事業チームの廣瀬氏は、スクール生、コーチともに、一人ひとりに合ったレッスンづくりに期待をかける。

「テニススクールはグループ指導ですが、お一人おひとりテニスの楽しみ方は違います。試合に勝ちたい方もいれば、ただテニスを楽しみたいという方もいます。コーチにとっても、選手育成が得意なコーチもいれば、初心者のほうが安心して楽しめるレッスンができるコーチもいて、それぞれに得意分野があります。今、過去のテニスレッスン映像のコーチの発言をデータ化し、AIで分析をし活用する事をソニーさんと検討しています。これまでは、経験値でコミュニケーションしていた部分を、形式知化していくことで、より一人ひとりのお客さまや、クラス全体の満足度が高いレッスンが提供できるようになります。お客さまのニーズや目的も、レッスンを続けるうちに変わっていきますので、お客さまの変化にも的確に寄り添えるようになることで、スクールのライフタイムバリューを高めることにつなげていきたいです」

勝部氏も、こう加える。

「2023年から、成人コースと選手コースにおいてもスマートスイミングレッスンの導入を開始しました。特に選手コースでは、映像とデータをパフォーマンス研究にも活かせることができ、日本のスイミングスクールが、水泳大国日本を支えてきたように、これからも日本選手の世界での競争力を高めることにもつなげられます。これまで培ってきたスクール指導に、DXツールをプラスアルファすることで、益々磨きをかけていけることが楽しみです」