一貫性を保つコーチ×テクノロジーを武器に出店へ

「UBX BOXING+STRENGTH」(以下、UBX(ユーボックス))は、12のスポットに、ボクシング動作ができるサンドバックやパンチングボール等のほか、持久力、脂肪燃焼、筋力アップとなるマシンやトレーニングギアが置かれ、各所3分間、インターバル30秒、1周45分で完了するサーキット形式のブティックジムである。2016年にオーストラリアのブリスベンで誕生後、今では8カ国約115施設が稼働中だ。開業を控える契約済み店舗も含めた施設総数は500を超える。日本国内には2023年8月に上陸し、現在7店舗になっている。事業モデルを作り上げたUBX創業者のTim West(ティム・ウエスト)氏が10月1日に来日したのを機に、本誌単独インタビューを行った。

  • UBX CO-FOUNDER
    TIM WEST 氏

UBX ビジネスを立ち上げられたティムさんの経歴を教えてください。

大学でスポーツ科学の勉強をしたのち、世界各地のフィットネス施設であらゆる業務を経験しました。その後、自国のオーストラリアに戻り、携帯電話のショートメッセージを活用した各種サービスの会社を立ち上げ、今でいうSMSマーケティングのサービスを始めました。パーソナルトレーニングを提供してきた経験から、予約、請求ができるアプリを開発し、事業が軌道に乗ったところで会社を売却しました。

そこで得た資金を元に、フィットネス施設の運営で、再び業界に戻りたいと考え、UBX事業を立ち上げました。

UBXビジネスの特徴は?

BXはボクシングという競技スポーツとフィットネスが融合し、さらにテクノロジーを掛け合わせたビジネスモデルです。特にテクノロジーの活用は特徴になっています。

テクノロジーはどう活用しているのでしょうか?

創業の当時から、事業のスケールにFC化を視野に置いてきました。店舗数の拡大に伴い、効率的な運営のためにテクノロジーを活用しているのが1つです。

フィットネス施設のようなライフラインビジネスに、何よりも重要なのは「一貫性」です。提供するワークアウトは、オーストラリアで提供するもの、日本で提供するもの、シンガポールで提供するもの、すべて同じでなければなりません。

またサービスを提供する人の能力も均一でなければなりません。しかし現実には人の能力は一貫性を保てないこともあり、それを補うのがテクノロジーだと思っています。UBXでは、ワークアウトメニューは本部から世界の店舗に同時配信することによって、どこに行っても一貫性のあるワークアウトエクスペリエンスをメンバーに提供することを可能としています。

テクノロジーの重要性を示すもう1つは「経営管理」です。経営管理は、テクノロジーを積極的に入れることによって一元的に管理することができます。例えば、店舗によって、国によって異なるシステムを採用すると本部は管理がしづらくなります。どこに行っても一貫性がある同じ管理システムで、世界の店舗が同じ管理画面を見て事業を進めるほうが、効率性が向上します。

もう1つは将来的に「AIの活用」が重要だと考えています。

AIの活用とは具体的には?

防犯カメラの活用や、プログラム提供までAIと組み合わせて、より高度なサービスを開発したいと検討しています。

一方、FCとして一貫性を保つための施策にAI活用があると考えています。英語圏ではAIの導入を進め、「Q&A」での活用に利用しています。

例えばメンバーからの問い合わせ、顧客、潜在顧客からの問い合わせ、本部へのFC加盟会社・加盟店からの問い合わせなどはAI化し、回答速度を高め、回答精度の向上を実現しています。

CS部門を機械化することによって、そこに割いていた人的リソースを、より注力すべきところに転換することが可能となります。

一方、品質の一貫性というところで重要なのが指導面領域で、ここにもAIを活用しようと思っています。

具体的な活用方法は?

私たちの日々のミッションは、提供する商品の価値を強化していくことです。商品=エクササイズ、ワークアウトは、本部からオンラインでモニターから放映されますが、ところどころ実在のコーチが介在してメンバーに提供されます。モニターに映し出されるワークアウトは一貫性があるものですが、人が介在する部分は一貫性が統一できないときもあります。そこで、その人の品質確認をAIが行い、評価・判定し、かつ、フィードバックしていくということを試みようと考えています。

実際に日本の場合は、3ヶ月に1回、全コーチの動作の査定を行い、フィードバックをしています。AIがその役目を担えば、人がやらなくてもよくなるということです。人の評価には膨大な時間がかかっています。この時間を削減しほかの業務に集中できることになります。

AIはどう評価するのですか?

コーチやメンバーのプライバシーには最大限配慮したうえで、防犯カメラを活用してコーチの指導時の動きをAIがチェックします。明確にしておきたいのは、『フィットネス施設に大切なことは、人が介在している』ということです。メンバーとトレーナーが双方向のコミュニケーションをしっかり取った上で、1つの方向に向かっていくことで、会員満足度が向上します。

イノベーションが重要だからと、コーチをAIに置き換えるということはありえません。UBXは、人対人の指導は永久に変わりません。これからもUBXは人を介在させていく。それを踏まえた新しいサービスを、来年以降、提供していきたいと考えているところです。

テクノロジーの投入で無人の新サービスには関心はありませんか?

これからも無人はありません。コロナ禍の時は、物理的に人が外に出れなかったので、コネクテットフィットネスは盛り上がりを見せましたが、人が自由に動けるようになった今、やはり人が介在しないサービスというのは、持続し得ないと考えています。

コーチはお客さまとのコミュニケーションを優先するのですね?

そうです。AIの活用をすることによって人の要素を排除するということは、全く考えていない。それどころか、コーチがより成長しないほうが事業には大きなリスクと考えています。我々本部の責任としてあるのは、雇用をしっかり守ることだと考えています。

そのうえで、人が使うべきリソースのなかでAIに任せられることは任せて、人が本来もっとフォーカスしたほうがいいことにしっかりとエネルギーを注いで、もっと意味のあることを提供できることを目指しています。

さて、ボクシングエクササイズが世界的に数多く出てきて競争下にあるなか、今の状況はいかがですか?

ボクシングのジャンルが、すでにレッドオーシャンに差し掛かっているのではないかとの指摘かと思いますが、そもそもフィットネスというカテゴリー自体が、レッドにあり、日本でいえばchocoZAP、エニタイムフィットネス、ルネサンスもジャンルが違うものの競合しているのは確かです。

では我々がどう差別化しているか。

実はボクシングエクササイズにもいろいろなジャンルがあり、提供側は創意工夫しています。我々UBXは、硬派なボクシングを提供しつつ、筋力トレや有酸素を折り混ぜメニュー提供しています。片足はボクシングに軸足を置き、もう片足はストレングスに軸足を置いるので、1度に2つの運動が楽しめ、今までにない、新しいサービスを提供していると考えています。

メニューだけでなく、運用において利便性も追求し、ブティック型ジムにある予約や定員などの、時間的、物理的、空間的な制約の煩わしさを排除して、予約せずにやりたい時にいつでも最新のワークアウトができるシステムも差別化の1つとなっています。

現在の世界の会員属性は?

世界平均として、会員の60~65%は女性です。平均年齢は38歳。会員にはジム初体験から経験豊富なアスリートまで様々ですが、大多数が初めてボクシングを体験する方で、ボクシングを経験してみたかったという意向を示しています。

日本の市場でのUBX事業をどう見ていますか?

日本のフィットネス参加率は、ここ何年も5%以下で推移していて、これから変わるのかどうか予測しにくいところです。そのなかで我々がこのボクシングをフィーチャーした背景の1つであり、ビジネス的な側面で特に日本が見逃せないことがあります。フィットネス人口は3~5%かもしれないですが、いわゆる格闘技人口で見た時に、さらに裾野が広がることです。日本は、格闘技が技能ベースの土台があることに、高い優位性を感じています。

日本のパートナーである株式会社UBX JAPANの倉岡征克氏を中心に、手を携えて市場開拓していきます。

株式会社UBX JAPAN 倉岡征克氏(写真左)と手を携えて、日本の展開を進めていく。

今後の世界的な展開戦略を教えてください。

私たちのミッションでありビジョンは「世界最大のボクシングコミュニティになること」です。それを実現するためにどこの国でも、どの地域でも、制限をつけずにビジネスを成立させるようにしたいと思っています。

それを前提に、我々が今現在、重要視しているのは中東地域で、UAEに12月に開業します。さらには韓国、ドイツ、スペイン、フランス、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、カナダへの参入を進めつつ、テクノロジーを活かし実店舗以外の新サービスをアプリで開拓したいと思います。