日本国内において、フィットネスクラブはジムやプール・スタジオがあって、運動する施設と認識している生活者が大半だろう。しかし、先進国といえる欧米ではコロナ禍を経て「フィットネスクラブ」から「ウェルネスセンター」へと、クラブに対する顧客からの見え方を変えようとしている。決してリカバリー系のハードだけを揃えればいいわけではなく、対象顧客の期待や課題、目的を解像度高く明らかにして、それに対応と提供を工夫していくことが大切だ。独自の視点でリカバリーとリコンディショニングに取り組む事例に迫っていく。



株式会社ヒカリシステム
湯~ねる 総支配人
金髙純一氏

 

 

千葉県習志野市に位置する「天然温泉湯~ねる」は、温浴・宿泊・リラクゼーションを融した複合型施設である。その隣接地に今年7月、新たに誕生したのが「湯~ GYM 新習志野駅前店」だ。同施設は、ジョンソンヘルステックジャパン株式会社(以下、ジョンソン社)が提供するドイツ発のAIフィットネスマシン「EGYM」を導入し、リカバリーとコンディショニングを一体で提供する革新的モデルを実現。温浴施設併設型フィットネスとして注目を集めている。その高い利用者満足の背景にある、同社の取り組みを探る。

 

温浴からウェルネスへ—ヒカリシステムが描く健康価値の再定義

株式会社ヒカリシステム(以下、同社)は、千葉県を拠点にアミューズメント、温浴・宿泊、DXサポート事業などを展開する企業グループだ。グループ全体で掲げるパーパスは「ココロとカラダの元気を支える応援団」。その理念を具現化したのが、2019年に開業した「天然温泉 湯~ねる」である。

天然温泉やサウナ、宿泊機能を備えた同施設は、リラクゼーションにとどまらず、“能動的な健康づくり”を促す「アクティブウェルネス」の実現を目指してきた。湯~ねる総支配人の金髙純一氏は「お客さまにとって、心身の健康を支える場所でありたい」と話す。

その理念の延長線上に誕生したのが、湯~ねる隣接のフィットネス空間「湯~ GYM」だ。もともと飲食スペースだったエリアを転用し、より高い付加価値の創出を目指して開設された。

「宿泊や温浴で来館される方々に、新たな健康体験を提案したい。それが出発点でした」と金髙氏は振り返る。

EGYM 導入で実現した“ 運動のわかりやすさ”と“ 成果の見える化”

湯~ GYMが掲げるコンセプトは「誰もが始めやすく、続けやすいフィットネス」。その実現を支えるのが、AI搭載トレーニングマシン「EGYM」である。

EGYMは個人データを一元管理し、マシンが自動で最適な負荷・可動域を設定。利用者はリストバンドをかざすだけでログインでき、すぐに自分専用のトレーニングを開始できる。従来のような重量調整やフォーム確認、記録作業の手間が不要となり、初心者でも安心して効果的に運動できる点が特長だ。

さらに、マシンのディスプレイには筋力バランスや成長度がグラフィカルに表示され、AIが常にパフォーマンスを分析・最適化。利用者は成果を実感しながらトレーニングを継続できる。

運営面でもメリットは大きい。専門トレーナーを常駐させなくても個別最適な指導が行えるため、少人数スタッフで高いサービス品質を維持できる。

金髙氏は「初のジム運営でしたが、EGYMのおかげでスタッフの経験不足を補えました。教育コストを抑えながら、会員さまの満足度を高められた」と語る。

“ 温浴×フィットネス”が生み出す新しいコンディショニング体験

湯~ねるの強みは、温浴・サウナ・宿泊という既存インフラを活かし、「整える」「鍛える」、そして再び「整える」というサイクルを施設内で完結できる点にある。

湯~ GYM利用者は、トレーニング後すぐに温泉やサウナで身体をリセットし、心身のリカバリーを最適な流れで体感できる。

「多くのお客さまが運動後に温浴を組み合わせています。EGYMで自身のペースに合わせて身体を動かし、湯~ねるで疲労を癒やす——この一連の体験こそが“コンディショニングそのもの”です」と同氏。

スタッフは利用者の生活スタイルをヒアリングし、入浴・休憩・運動を組み合わせた提案を行う。AI任せにせず、人のサポートを重視する姿勢も同施設の特徴であり、テクノロジーと人の温かさが共存することで、リカバリー体験の質を一段と高めている。

利用者・スタッフ双方が実感する“成果”

オープンから数ヶ月が経った湯~GYM。「設定が不要で使いやすい」「目標が明確で続けやすい」といった声が利用者から多く寄せられている。

「他のジムでは何をすればいいかわからなかったが、ここではやるべきことが明確」「トレーニングが楽しくなった」といったポジティブな反応も多い。

また、スタッフ自身にも変化が生まれた。中でも印象的なのは、50代の男性スタッフがEGYMを活用して2ヶ月弱で大幅な減量に成功した事例だ。

「スタッフ自身が成果を出すことで、お客さまへの説得力が増しました。体験そのものがサービス品質の一部となるのは、EGYM導入の副次的な効果です」と金髙氏。

さらに同社では、スタッフが「お客さまの様々な声を集める」というルールがある。蓄積されたフィードバックをもとに改善を重ね、サービス品質の向上につなげている。EGYMを軸にしたデジタル運営体制が整う中、同社ではDXと顧客接点の融合が推進力を支えている。

経営的視点から見たEGYM 導入のインパクト

EGYMの導入は、単なる設備投資ではなく、フィットネス経営の新たな課題解決モデルとしても注目される。

人材不足、教育コスト、離脱率——多くのクラブが直面する課題に対し、EGYMは「自動化」「個別最適化」「成果の可視化」の三方向からアプローチ。トレーナー依存型ではなく、テクノロジーを中核に据えることで、少人数運営でも高付加価値サービスを実現できる仕組みを提供している。

また、会員データの分析により、利用状況の可視化や離脱予兆の把握、個別提案など、LTV(顧客生涯価値)の最大化も可能になる。

同社では「EGYMは単なるマシンではなく、経営を支えるプラットフォーム」と位置づけている。これは「EGYMはソリューションである」というEGYM自体のコンセプトとも合致しており、同社のコア事業の付加価値を高める最適な事例の1つと言えるだろう。

温浴× AIフィットネスが描くウェルネスビジネスの未来

湯~ GYMはオープンからわずか数ヶ月で会員数が右肩上がりに推移。利用者の約5割はもともと湯~ねるの顧客であり「お風呂ついでに運動」「運動後にリカバリー」という新しい生活習慣が定着しつつある。

「この温浴とジムの融合モデルを、今後は新店舗や他事業にも展開していきたい。EGYMのAI技術と温浴施設のリカバリー力——この掛け算こそが、これからのウェルネスビジネスの可能性を広げるカギになると感じています」と金髙氏は強調する。

既存の枠に捉われず、テクノロジーと人的価値を掛け合わせ、新たな健康価値を創出する。この挑戦が、フィットネス産業の次なる成長領域を示唆していると言えよう。