AI・データ活用を推進する「AI Driven Company(エーアイ ドリブン カンパニー)」を昨年に宣言した株式会社hacomono(以下、hacomono)。その構想が今、具体的なサービスとして形になり始めている。体験・入会、決済など、事務手続きのDXにより店舗運営の改革に取り組んできた同社が、新たに「人だからこそ生み出せる接客価値の向上」に向けた支援をスタートした。ここでは、SPORTEC2026でお披露目し、多くの企業から注目を集めた接客支援プロダクト「hacomono AI Manager」(以下、AI Manager)の詳細に迫る。

  • 株式会社hacomono
    BizDev部
    重点戦略グループ リーダー
    山田祐輝氏

会員定着・継続率向上のために

フィットネス業界の店舗運営における「事務作業が多い」という課題をDXにより解決し、「人が輝ける環境」「人だからこそできる業務に集中できる環境」づくりに向けて、2019年3月にリリースされた「hacomono」。

 

約7年を経て、2026年8月時点で1万3,000店舗以上に導入される現在、DXによって創出された時間をより創造的・効果的に活用できるよう開発されたのがAI Managerだ。

総合クラブを中心とする有人店舗で課題となる、スタッフの経験値や勘によって生じやすい接客品質の差を縮め、誰もが会員一人ひとりの入会目的や施設に期待することなどの「事前期待」に合わせた適切な接客ができるようサポートする。

開発の背景には、店舗が抱える会員定着や継続率向上への課題があった。

フィットネス業界では一般的に、入会初期に会員との接点を増やし、適切なコミュニケーションをとることが、その後の会員定着や継続に重要だといわれている。しかし現場からは、「入会初期や来館頻度が落ちているなど、声をかけるべき会員がいても忙しくて気づけない」「入会目的や期待していることがわからず、一般的な挨拶や会話で終わってしまう」といった声が挙がっていた。さらにフィットネス業界ではアルバイトスタッフも多く、スタッフの入れ替わりが生じやすいことも、課題解決を難しくしている。

ベテランスタッフであれば、会員の施設内での様子などから「入会して間もない方だな」と気付けても、経験の浅いスタッフでは難しく、どうしても指示待ちになりがちだ。

hacomonoではこうした課題に着目し、スタッフの経験や勘だけに頼らない接客の仕組みづくりを目指して、AI Managerを開発した。

接客を可視化し、対応方法を提案する「AI Manager」

タブレット端末を通じ会員への対応方法を提案

AI Managerは、先に挙げた現場の課題への対応に加え、これまで把握しづらかった接客を様々な視点からの可視化により、接客品質の向上を支援する。

・現場スタッフに対応方法を提案、経験に左右されない接客を実現

同プロダクトでは会員が入会時のアンケートなどに入力した入会動機をはじめとする「事前期待」や、運動中のコミュニケーションの可否、来館履歴などの「hacomono」に蓄積されたデータを活用。来館者のなかから声をかけるべき会員をスタッフが持つタブレット端末上にピックアップし、「誰に・何を」すべきかを提示してくれる。

ピックアップされた会員は対応の優先度に応じて色分けされ、完了するまで対象として残り続けるため、対応の優先順位がつけやすく、忙しい現場でも見逃しを防げる。

AI Managerの導入を推進する同社BizDev部重点戦略グループでリーダーを務める山田祐輝氏は、特にこだわった点の1つとして「手軽な操作性」を挙げる。

「接客品質の向上に向けて、接客頻度やその内容をスプレッドシートやGoogleフォームなどに入力している企業さまは少なくありません。しかし、忙しい現場では入力作業そのものが負担となり、結局は形骸化してしまうケースもあります。そこでAI Managerでは、極力ワンタップで手軽に記録できるつくりとしました。接客後に『完了』をタップするだけで記録できるため、導入店舗さまからも『記録の負担が減った』と喜ばれています」

わかりやすい操作性で高い評価を得てきた「hacomono」で培ったUI/UXのノウハウが、AI Managerにも活かされている。


・様々な視点で接客を可視化、本部での分析を可能に

AI Managerによる接客の可視化は、「現場の動きが見えない」という本部側の課題の解決にもつながっている。

誰が、どの会員に、どの程度声をかけているのか。これまで把握しづらかった接客について、スタッフごと・時間帯ごとの声かけ量などをダッシュボードで表示してくれる。

本部が様々な切り口から分析できる環境を整えることで、現場の課題を発見し、改善につなげやすくしている。

「接客の効果を測る指標の1つとして、継続率に大きく影響するお客さまの『再来館』や『次回受講』を設定しています。声をかけてもその後の来館状況に変化が見られなければ、接客内容を振り返り、改善に向けた対応を考えることもできます。結果は店舗を横断して確認できるため、個人だけでなく店舗の評価にもつなげることができます」(山田氏)

実際に導入店舗からは、次のような声が寄せられている。

「接客という定性的な業務は『誰がどれだけ貢献しているか』が見えづらい側面があったが、AI Managerにより誰がどんな接客をしたかがデータ化され、フォローが必要な会員さまへの声かけが再来館率の向上に直結するという成果が数字で表れている。スタッフ自身も、自分の頑張りと成果のつながりをはっきりと実感できています」

現場スタッフにとって、自らの接客が可視化され、評価につながることは、お客さまとのコミュニケーションや記録に取り組むモチベーションになり得る。データが蓄積されれば、スタッフ自身が課題や強みを把握しやすくなり、上司もデータに基づいた指導を行いやすくなる。データをもとに良い接客事例をスタッフ間・店舗間で共有することで、施設全体の接客力向上という好循環にもつなげられるだろう。

現場での動きを店舗・本部が理解し、改善へとつなげていく


・記録の負担を軽減する「AI Voice Memo」

AI Managerに搭載されている「AI Voice Memo」は、タブレットなどに話しかけるだけで内容を整理・要約して記録できる入力アシスタント機能だが、特にパーソナルトレーニングとの高い親和性が見えてきている。

トレーナーはセッション後、清掃や次のセッションに向けた準備など、限られた時間のなかで様々な業務を行う必要がある。そのうえで「スクワット〇回、ベンチプレス〇kg」といったトレーニングメニューや会員の状態を細かく記録することは、大きな負担になりがちだ。

「『AI Voice Memo』であれば、きちんと文章にしようと考えながら話す必要はありません。理路整然とした日本語でなくても、前後関係を補いながら内容を整え、要約してくれます」(山田氏)

実際に利用したパーソナルトレーニングジムからは、「文章を整えようと考える必要がなく、手軽」「記録にかかる時間を削減できた」といった声が寄せられており、音声を活用した記録方法が高く評価されている。


システム提供からより現場・事業成果に近い支援へ

同社はさらに次のステップへと歩みを進めている。以前から代表の蓮田健一氏は、「DXすること自体が目的ではない。DXによって創出された時間を使い、より良い店舗運営を実現することが大切」と語ってきた。

導入企業からは、今後AIの活用が進むことで、業態の特性や店舗ごとのブランド、顧客特性などを踏まえた、より精度の高い提案が実現することへの期待も寄せられているという。一方で、専門用語を含む音声の要約精度など、改善すべき点もまだある。同社はこうした現場の声を反映しながら、AIの精度向上や機能改善を進めていく。

hacomonoが支援する領域は、店舗運営の効率化にとどまらず、人だからこそ生み出せる価値へと広がり始めている。AIを活用しながら、フィットネス・ウェルネス業界における「人」の力をどう引き出していくのか。今後の展開にも注目したい。