どの事業においても、事業を始める前や、事業を始めて一定期間経過後に計画を策定することが欠かせない。特に、フィットネスジムにおいては、いわゆる装置産業に分類される。
装置産業とは、ここでは「設備投資を行って店舗を構え、その場所に集客を行い、サービスを提供するもの」と定義する。フィットネスジム含め、装置産業はどうしても最初の初期投資額が大きくなりがちである。
総合型フィットネスジムであれば十数億円の初期投資が必要であった。現在はコンパクトなサイズのものが店舗数として増えているが、それでも数千万円の初期投資が必要となる。個人で挑戦するには、相当高いハードルではないだろうか?
ここで、実現可能性の高い経営計画があると、投資額に対する回収の見込みの解像度が高まり、必要な資金の調達の確度も高まる。そして、期中においては事業の向かうべき方向性を示すコンパスになる。心理的にも安心材料として役に立つであろう。
そこで、長年に亘ってフィットネスジムを取材してきたフィットネスビジネス編集部が、経営計画策定のヒントになる情報を掲載することで、フィットネス事業者を後押ししたい。
勝てるフィットネスジムの経営計画とは
経営計画はつくるだけでは意味がない。まずは自社がなりたい姿、そして現状とのギャップをできるだけ客観的事実に基づいて把握し、そのギャップをいかにして埋めていくのかというところからスタートしよう。
その際に役に立つのが「As Is / To Beフレームワーク」である。As Isが現状、To Beがあるべき理想の姿を表す。イメージは下記の図をご参照いただきたい。
この図に応じて、勝てるフィットネスジムの経営計画に必要な要素は以下の2つである。
- To Be(あるべき理想の姿)が真に顧客から求められていて、自社に利益をもたらすか
- ギャップ(問題)を埋めるためのアクション(行動)が実現可能かつ有効か
To Be(あるべき理想の姿)は、出店するジムのコンセプトをしっかりと思い描け、それが顧客を満足させるものかどうかとも言い換えられよう。それを実現するための行動指針がギャップ(問題)埋めるアクション(行動)に反映される必要がある。
もし、これらの要素を満たさないことがわかったら、PDCAを回して改善する作業を怠らないことが肝要である。そうすることで、勝てる経営計画に近づいていく。
フィットネスジム経営計画に必要な7つのこと
それでは、具体的にフィットネスジムの経営計画に必要な要素を整理していこう。To Be(あるべき理想の姿)が解像度高く思い描けた後に、As Is(現状)からのギャップ(問題)がどれくらい離れていて、それを埋めるためのアクション(行動)を策定するのが経営計画である。
この章では、以下の7つの要素を順番にフォーカスしていく。実際に取り組むべき順番でもあるので、頭に入れておこう。
- 商圏調査
- 物件策定
- 業者選定
- 集客施策
- 人員計画
- 収支計画
- 資金調達
商圏調査
商圏調査は最初に行うべきタスクかつ、もっとも重要なスタートラインだ。ここを間違えてしまうと、後の工程がすべて無駄になると断言してもいいだろう。ビジネスの性質上、一度出店したらその場所で何年も事業を行う必要があるフィットネスジムは、この入り口が鬼門である。
オープンするジムのコンセプトが決まると、自然とターゲット顧客が決まる。そのターゲット顧客から見たときにアクセスの良い場所にあるのか、自社から見たときに十分な数のターゲット顧客がいる地域なのかを見定めることが商圏調査で、人口のうちのどれくらいの人をを顧客にし、費用に対して売上が見合うのかを予測することもできる。これを怠ると予想よりも集客ができないということが発生する。防げるミスは、必ず防ごう。後でミスに気づいても、後戻りは難しい。
それでは、具体的に商圏調査とは何を行えばよいのだろうか。主に見るべき点は以下の5つ。
- 生産年齢人口
生産年齢人口とは15歳以上65歳未満の人口を表す。さらに細かい年齢毎の人口もチェックしておこう。男女比の傾向も併せて確認し、例えば若年層の女性をターゲットにするジムをオープンする場合、本当にそのターゲットは十分にその商圏にいるのかを把握することが、勝利への第一歩だ。 - 所得水準
所得が一定以上ないとフィットネスジムに通うという選択肢すら生まれない。ターゲットの人口ボリュームが確認出来たら、その人たちの財布にお金はあるのかを次に調べる。それに応じて月会費の設定にも影響してくる。 - 昼夜間人口
例えば商業地域は昼の人口は多くても、夜は少ない。一方で住居地域はその逆である。コロナの影響でリモートワークが浸透し、一概には言い切れなくなりつつあるものの、それであってもなおさら住居地域を商圏にする方が賢明であろう。 - 地形・歴史
線路や川といった、商圏を分断してしまう障害物がある場合、直線距離では近くとも、アクセスが悪いという場合もある。次の物件策定に活かす材料となる。また、その街の歴史や変遷などを知ることで、地域性を把握することも忘れてはならない。 - 競合店舗
最後が競合の調査である。競合が少ない商圏はブルーオーシャンであるが、一方でフィットネス初心者が多い地域とも言える。ここで上級者向けのジムをつくることは現実的ではない。逆に競合の多いレッドオーシャンであれば、よほど勝ち筋の見える店舗をつくらないと生き残れない。単純な店舗数のみならず、その店舗のコンセプトと自社のコンセプトが同じ商圏で共存できるのかを把握しよう。
以上の5つを知るには、実際に街を歩き回る、インターネット上でデータを検索する、そして商圏分析ツールを利用するという作業をうまく使い分ける必要がある。商圏分析ツールについては有料のツールが高機能ではあるが、無料のものも用意されている。詳細は下記リンクをご参照。
物件策定
商圏調査が滞りなく終われば、次は入居する物件を見つける必要がある。コンセプトが決まれば、それを実現するための最低限の面積が見えてくる。物件探しについては巡り合わせという要素も強いが、コロナの影響で駅前の立地のテナントが格安で空いているケースや、フィットネスジムの居ぬき物件も少なからずある。納得の行く物件を探そう。
面積やアクセス以外にチェックするべきポイントは以下の3つだ。
- 視認性
人通りの多い場所で、目に入りやすいかどうかである。例えば、最寄り駅のホームからビルと看板が見えるというのもいいだろう。集客施策とは別で、ジムを地域の人に認知することができるため、メリットは大きい。 - 振動
例えばビルの高層階に出店する場合、下のフロアに振動が伝わり、近隣トラブルになってしまうケースがある。振動を抑える施工をするという選択肢もあるが、下のフロアの入居テナントの理解を得られるのか確認するか、路面店が一番であろう。 - 賃料相場
近隣の物件と比較して坪単価(1坪あたりの金額)に乖離がないかを確認する。月々の賃料はフィットネスジムにおいて人件費に並ぶ大きな固定費だ。ダイレクトに事業の収益性にも関わってくるため、じっくり検討しよう。
物件策定ができれば、月々の賃料のほかにジムの会員数のキャパシティが自ずと見えてくる。収支計画の作成に大きく近づくことができる。
業者選定
業者選定とは大きく分けて以下の3つである。
- 設計・施工
フィットネスジムの設計と施工は特殊である。振動対策の施工を必要とするのであればなおさらだ。そのため、フィットネスジムの設計・施工実績のある業者を選定すること。工事代金も大きく左右する。しっかり相見積もりを取ろう。 - 機材導入
トレーニングマシンやカーディオマシン、場合によってはタンニングマシンなどであろう。インターネットでの検索のほかSPORTECなどの展示会で業者を知っておくとよいだろう。また、マシンについては顧客最優先で選定すること。よくありがちなのは面積の制限をクリアするために、多機能のマシンを設置してしまう例だ。顧客は使い方がわからず、困惑することも考えられる。そこの配慮を忘れないように。 - システム
セキュリティのシステムや会員管理システムなど、ジムを運営していくうえで必要となるシステムである。会員数やスタジオの有無などでも選ぶ業者が変わってくる。
システムはランニングコストとして毎月掛かってくるが、それ以外の業者に対する費用は大きな金額を初期投資として投じることになる。それらを何年かけて回収できるかを見積もることが経営計画において必要になる。
集客施策
用意するべき設備が固まってきたところで、次は集客施策を練る。インターネットなどで調べられる認知経路(どの媒体を通じて知ったのか)のデータを駆使しながら以下の4つを組み合わせよう。
- 紙面
折込チラシがもっともイメージが湧くだろう。費用については印刷枚数×単価になるので、予測がしやすいし、効果も高い。 - SNS
InstagramやYouTubeを活用することで、主に若年層を取り込むことができる。無料から使い始めることができるが、動画のクオリティに拘る場合はプロに依頼しよう。 - SEO・リスティング
ホームページの検索表示を上位に置く施策だ。費用については業者や地域によっても変わってくる。SEO対策も相見積もりを取ったうえで業者の実績をしっかりと確認してから依頼しよう - 看板
店舗の前の看板ももちろんだが、最寄り駅の駅内広告も可能であれば利用しよう。
広告費は効果が最初から見えづらいため、出費を少なくしてしまうケースが多い。目安としては「オープン時の集客人数目標 × 平均顧客単価(月会費)」を広告費として準備しよう。そうでないと、よほどの好立地でない限りジムがオープンしたことすら認知されない。ここの施策が、売上に関わってくる。
また、集客施策の比重は商圏調査で知った人口分布や狙うターゲット層によって変わってくる。高齢者の多い地域でSNSの配信に力を入れても、効果が薄いことは言わずもがなであろう。
人員計画
オープンするジムの営業時間をまずは固め、さらにスタッフを配置する時間と人数が決まれば、シフト表が見えてくる。それから必要な人員が何名なのかが決まる。以下の4つが決まると、毎月の人件費も計算することができる。
- 役割
インストラクター、フロントスタッフなど - 契約体系
アルバイト、正社員、外部委託 - 給料
時給(アルバイト)、月給(正社員)、委託費(外部委託)
<h3>収支計画</h3>
いよいよ、客観的数値が示される収支計画である。ここまで見てきたものを計算することで、収支を出してみよう。
- 売上=想定顧客数 × 単価(月会費)
- 費用=賃料+人件費+システム利用料+広告費宣伝費+その他
- 利益=売上ー費用
- 初期投資=工事費用+機材費用
- 投資回収年数=初期投資 ÷ 利益(年間)
収支のモデルケースは下記のリンクより確認できる。
https://business.fitnessclub.jp/articles/-/27
資金調達
ここまでの計画が整えば、資金調達を実施しよう。フィットネスジムの運営の場合は大きく分けて以下の2つの調達方法がある。
- 銀行借入
起業して間もないのであれば、日本政策金融公庫の融資を利用しよう。すでに別の事業に取り組み、銀行と取引がある場合は、その銀行に頼るのもよいだろう。銀行は特に数値計画については細かくチェックする。収支計画は2パターンつくることをオススメする。通常の計画とストレスケースである。例えば、想定の70%しか集客できなかったとしても、返済が可能な計画であると銀行内の稟議は通りやすい。 - 補助金・助成金
出店する自治体毎に補助金や助成金のラインナップが異なるため、各自で調べる必要がある。賃料、人件費、広告費、工事費用、マシン導入費用など支出の多いものに補助金が適用できないか、調べてみるとよい。
トータルで必要となる費用は店舗の規模に大きく左右される。自分自身のお金に対して借入できるお金は2~3倍と考えた方がいい。もっと多くの金額を借りられる場合もあるが、返済に無理のない範囲に抑えるために、収支計画に追加するかたちで返済計画も作成しておこう。
まとめ
以上、フィットネスジムの経営計画策定に必要な手順を具体的に見てきた。勝てるかどうかはTo Be(あるべき理想の姿)が自身の選んだ商圏に必要とされているかで決まる。そこの入り口を間違えなければ、あとは実現するために必要な資金を調達し、ハードとソフトを整える準備を進めていく。そして、しっかりと自社に利益が残るかどうかを見極めよう。
手順がわかっても、やはり最初の店舗を出すというのは骨が折れるし難しい。そこで、フィットネスジムの新規出店を複数経験するプロに依頼することもひとつの選択肢だ。初めての出店であれば、成功確率は格段に高まるであろう。以下、フィットネスジムのコンサルタントを3名紹介する。
最後になるが、フィットネスジムの開業を志す者の成功確率が少しでも高まることを願っている。