顧客とスタッフを幸せにする総合型クラブの新たな取り組み

  • 吉永大介氏
    株式会社林水泳教室 
    執行役員開発本部長 
  • 横沢陽大氏
    HAYASHIフィットネス&スパリゾート24 平和台
    マネージャー 

2022年9月2日、株式会社林水泳教室(以下、林水泳教室)は東京都練馬区に、HAYASHIフィットネス&スパリゾート24平和台(以下、HAYASHI フィットネス)をオープン。現在、コロナ禍で苦境を強いられている施設が多い総合型業態であるが、HAYASHI フィットネスはオープン前から目標会員数に到達。その秘密は、現場スタッフと会員さまへ徹底的に配慮した経営と施設設計に隠されている。成功を裏付けする同社の想いや取り組みに迫る。

さらなる成長を目指しコロナ禍に始動

環八通り沿いの好立地にオープン

林水泳教室は、1967年に創業して以来、神奈川県を中心に子ども向けのスイミングスクールや体操教室を展開してきた。企業のさらなる成長のため、 2020年を第2創業期と定め、新しく総合型フィットネスクラブの立ち上げを決意した。同年の4月1日に出店活動を開始した矢先、新型コロナウイルスにより緊急事態宣言が発令されることとなる。

通常であれば、店舗ビジネスは出店抑制をせざるを得ないだろう。しかし、林水泳教室は違った。多くの企業が事業縮小に踏み切るなか、反対に出店活動を加速させた。 

執行役員開発本部長の吉永大介氏は、「総合型フィットネスクラブの新規出店1号店での失敗は企業の屋台骨を揺るがしかねません。立地選定に関しては、絶対に成功できると確信できる場所にこだわりました」と説明する。出店活動の範囲を東京にまで広げ、駅から徒歩圏内の環八通り沿いにある好立地の物件の契約を成功させた。幹線道路に面し、駅からのアクセスも申し分ないが、平和台という立地も魅力的だ。周辺は住宅環境整備が進む練馬区の人口増加エリアとなっており、優良なベッドタウンのため、集客にも適している。周辺1.2kmにチラシのポスティングを中心に集客を図り、オープン前に目標の会員数を達成。上々のスタートを切っている。

総合型クラブは本当にオワコンなのか?

新型コロナは、例に漏れずフィットネス業界にも甚大な影響を及ぼしている。その中でも特に大きな打撃を受けたのが、総合業態のクラブと言われている。実際に、小規模業態やパーソナルトレーニングジムなど、目的特化型のジムが増加している傾向にある。このような環境のなか、林水泳教室はなぜ総合型クラブの出店に踏み切ったのであろうか。

この逆張りとも言える施策に対し、吉永氏は次のように指摘する。「私は、総合型クラブがオワコンだとは全く考えていません。事実、コロナ禍においても、同業態で成功を収めている事例もあります。オワコンと決めつける前に、まずはしっかりお客さまや事業の仕組みを見つめ直すべきなのではないでしょうか」

確かに、業界トップ211社の直近決算期の税引き後利益を見ると、総合型クラブを主力に運営する株式会社東祥やセントラルスポーツ株式会社が、上位2社を占めている(Fitness Business編集部調べ)。多くの総合型クラブが、経営に苦しんでいることは事実である反面、コロナ禍においても、着実に黒字での経営を続けるクラブも存在する。総合型クラブであることが問題なのではなく、総合型クラブとして、何をしているのかが求められているのである。

トレーニングエリアも充実のラインナップ

リゾート感と合理性をかけ合わせた施設を設計

HAYASHIフィットネスのコンセプトは「湘南へショートトリップ」だ。林水泳教室が愛してきた茅ヶ崎のリゾート地を思わせる工夫を床や壁紙など随所に散りばめている。スパゾーンには、シルキーバスや熱波対流イノベーションサウナなどを完備。リゾート施設に勝るとも劣らない本格的な仕様となっている。

さらに、開放感の創出にもこだわった。館内各所に開口部を設置し、自然採光を最大限まで取り入れることによって、清潔感を演出している。プールは1階に配置し、周囲3方向を開口部にすることで、外部からの視認性を高めると同時に、利用者の開放感にも訴求している。

湘南をイメージさせる館内
視認性の高いプール

まるで湘南へトリップしたようなリゾート感を思わせる館内だが、ジムとして合理的な施設構成も欠かしていない。エステやゴルフレンジなどの相対的に坪効率の低いエリアは設けず、その分、ジムエリアを拡充するなど、多くの顧客が使えるように構成されている。また、ロッカーの個数やシャワー基数も、想定される利用率より30%増やした数を設置している。これにより、利用者が集中的に増加した場合においても、安全性を確保しつつ、待ち時間のストレスなども軽減できるという。限られたスペースを最大限に活用するため、フィットネスの利用者動線とキッズ動線が混在しているが、キッズスクール実施に伴う賑わいへの許容を入会時の条件とすることで対応。これにより、現状では成人会員からのクレームはなく、有効にスペースを活用できている。

「フィットネスを民主化する」をテーマにクラブを構築

前述したとおり、会員数はオープン時には目標を大幅に超えており、オープン後も午前中から多くの会員で溢れている状況だ。なぜ、多くのフィットネスクラブが集客に苦しむなか、このような状況をつくれているのか。その要因の1つとして、総合型業態としては格安の料金体系が挙げられるだろう。キッズを除く会員種別は3種類で、レギュラー会員は月額8,448円(税込)で、通常営業時間内全エリア制限なく利用が可能。

さらに、レッスンも受け放題だ。そこに24時間のセルフ利用を加えた一番人気のレギュラー+ジムセルフ会員も8,998円(税込)、30歳以下では同プランが7,678 円(税込)という料金で利用することができる。同等の規模のジムでは、月額1万円を超えるところが多いなか、顧客が通いやすい料金設定を実現している。「現在の日本人の平均年収を考えると、月額1万円を超える会費を支払うのは、極めてハードルが高いのではないでしょうか。私たちは、『フィットネスを民主化する』ためにも、フィットネスに通う意思や欲求を有する方々が、所得水準によって諦めることなく通っていただけるフィットネスクラブを創出したいという想いを持っています」と吉永氏は熱く語る。

この料金設定でも施設の質は全く落とさず、むしろ最新鋭の設備を整えているところがHAYASHIフィットネスの強みであろう。

「低価格でもお客さまに満足していただけるよう、コスト配分にはメリハリをつけました。必要となる設備とそうでないものを明確化しています」

コロナ禍で落ち込んだ売り上げの回復を図るため、会費を上げざるを得ないフィットネスクラブが多くなっているが、あえてポピュラープライスでの店舗運営を行っている。林水泳教室の「フィットネス民主主義」という熱量の高いビジョンが垣間見える。

安全性と効率性を高める最新鋭の設備

新型コロナウイルス以降、顧客がジムを選ぶ基準が変わったと言われているように、感染症対策などを含めた安全性の確保は、今やフィットネスクラブを運営していくうえで欠かせないテーマとなっている。HAYASHIフィットネスでは、感染症対策には徹底的に注力することで、安心・安全な環境を提供している。

館内には、天井埋込み式の抗ウイルス・除菌用紫外線照射装置「Care222®iシリーズ(ウシオ電機製)」を82基導入。この照射面と空間を同時に除菌できる装置が天井のいたるところに装備されており、施設内のほとんどの空間で除菌を行っている。スタジオ内では、照射面に空白ができないよう設置することで、対面でのレッスンも可能にしている。また、感染の要衝となるトイレには便器1つにつきCare222®iシリーズを1基ずつ設置するほどの徹底ぶりだ。

マスク未着エリアとなるプールエリアも管理は徹底している。電解次亜塩素や特許取得浄水システム「ピュアキレイザー®(東洋バルヴ製)」、フジスーパーセラミック濾過材、さらに特許取得磁気活性化水「モールドウォーター」など4つのメソッドを組み合わせることで、水質の管理には抜かりない。

優れた除菌装置を用いながらも、基本的な感染症対策も徹底している。チェックイン時の検温や、機械換気は、1時間あたりトイレでは15回、マスク未着エリアでは10回と高頻度で行っている。さらに開口部の上部を排煙窓にし、自然換気も可能にしている。

care222®を82基設置。
感染症対策には余念がない

水質管理も徹底している

HAYASHIフィットネスの支配人を務める横沢陽大氏は「ここまで徹底して感染対策を行っていますので、お客さまから安心して使えているというお言葉をいただいております。ただ、せっかく良い設備や対策を行ってもお客さまには伝わらないので、集客時のチラシで訴求したり、見学時にしっかり説明したりすることで、より安心してお使いいただくことができます。この安全対策と集客施策こそ、オープン前の目標人数達成に大きく貢献しています。さらに、入会時に理解を促すことによってなのか、実際にお客さまのマナーも非常によく、ロッカールームなどのマスク未着エリアでの会話はしないなどのルールは守っていただいています」と自信を持って話す。安全性を確保しようとする姿勢に対しては、顧客も応えてくれるのだろう。

 HAYASHIフィットネスでは、バックオフィス業務の効率化を推進するべく、積極的にDX化を図っている。会員管理システムに株式会社両備システムズの「ATOMS」を採用し、会員証を撤廃、本人確認は顔認証で統一した。会費請求や館内清算をすべてキャッシュレス化することで、スタッフのレジ締め作業や未納請求業務を無くし、コア業務に集中しやすい環境を整えている。レッスンは完全web予約制にすることによって、常連客などの場所取りを事前に防ぐほか、感染症対策にも寄与している。ジムエリアにおいても、電子予約ボードを導入し、予約制とすることで、機器の独占的な利用を防止できる。

また、各種レッスンを担当する業務委託のインストラクターへの支払い管理として、株式会社フィット・コムの「CLUBNETインストラクター管理システム」を導入した。これにより、スタッフとインストラクター双方の業務の効率化に成功した。横沢氏は「業務上、両者にとって負担のかかりやすい報酬の支払いに活用しています。インストラクター様本人が、自身で実績を入力でき、給与明細まで確認できるので、お互いに負担を軽減でき、合理的です」と嬉々として話す。

CLUBNETインストラクター管理システムを導入

安全性の確保と業務効率の向上は、フィットネス業界に関わらず、今や日本社会の問題として認識しても妥当と言えるだろう。HAYASHIフィットネスではこの両者に対し取り組み、成功を収めているのだ。

スタッフを大切にする=顧客を大切にする

積極的な設備投資により、スタッフの負担が大きく軽減されている。多くのフィットネスクラブでは、その結果として人件費の削減に踏み切るのではないだろうか。機械に任せる業務量が増える分、人員を調整し、利益増を図る。一見、当たり前のようにも思える戦略だが、これに対して吉永氏は反論する。

「フィットネスクラブで一番やってはいけないことは、スタッフを徹底的に使い倒して疲弊させること。いわゆるやりがいの搾取と言われる行為です。大企業の親会社を持つ総合型クラブほどその傾向は強いのではないでしょうか。人員を削減しすぎた結果、下手をすればフロントは常に1オペ、ジムエリアにはスタッフがおらず、入会見学のお客さまを疎ましくすら思ってしまうという最悪の状態になりかねません。スタッフが疲弊しきっている現場で良いサービスは絶対に生まれません」

実際にジムエリアを見学すると、驚いたのは業務を効率化したにも関わらず、スタッフが多数配置され、積極的に顧客に声かけを行っている姿だ。なおかつスタッフ全員の元気がとてもよく、笑顔で大きな声でのあいさつが聞こえてくる。

「あいさつは、お客さまは当然ですが、スタッフ間でも約束事にしています。人と人とのサービス業なので、この辺は耳にタコができるほど、スタッフには伝えています。アルバイトスタッフにも、初期研修として、5時間みっちり、ジムのコンセプトや規約、マナーなどについて、原点の部分から、支配人である私が説明を行います。社員かアルバイトかは関係ありません。おかげさまで、お客さまからもスタッフの態度について、お褒めの言葉をよくいただきます」と横沢氏は話す。

スタッフ間でのコミュケーションは欠かさない

ホスピタリティを高めるため、スタッフが心に余裕を持てる職場環境をつくることが、本部に求められる姿勢だと吉永氏は言う。

「ゆとりを持ったスタッフ配置にすることで、彼ら彼女らの精神衛生を安定させることはとても大切です。そういう意味で、意図した無駄をシフトに組み込んでいます」スタッフを大切にすることに重きを置いているため、休憩室には力を入れた。縦動線は確保しつつも、事務室とフロアを完全分離。しっかり休憩が取れるよう壁や床の素材にもこだわっている。「感情労働に従事しているスタッフは、顧客や業務から完全に隔離できる休憩空間が非常に大事だと考えています」と吉永氏は力説する。

コストカットの最有力候補ともいえるスタッフの休憩室にあえてコストをかけているのだ。吉永氏はこう続ける。「スタッフを大切にすることは、お客さまを大切にすることと同義です。スタッフが気持ちよく働くことができていれば、お客さまも心地よくジムを利用していただけるはずです」

日本には「おもてなし」という言葉があるが、経営的な側面においては、日本人の勤勉さに頼りきった危険性を孕んでいることを認識するべきである。林水泳教室では、業務効率化によって、人員を削減することはなく、むしろ余裕のある人員配置により、顧客とのタッチポイントを増やしている。スタッフも顧客も全員が幸せになれるクラブである。

意図した成長の踊り場を設け着実な成長を

動き出しから2年以上をかけて、オープンした総合型クラブで成功を収めた林水泳教室だが、今後も持続的な成長を目指していく。再来年以降、1年に1店舗のペースで出店していくことを目標としたうえで、吉永氏は「会員の離反を防ぐために、スタッフ教育や組織体制の強化は欠かせません。出店とスタッフの育成のバランスを図るため、『意図した成長の踊り場』を設けて、長期的な成長を目指していきます。現場にのみ過酷な労働環境が強いられ、負担がのしかかるようなクラブではなく、会社の成長と社員の成長のベクトルを統合し、フィットネス業界の『エクセレントファミリーカンパニー』になりたいです」と話す。

林水泳教室が、コロナ禍における総合型クラブの定石を覆すのか、今後の動向に期待したい。