• 株式会社NTTデータ経営研究所
    ビジネストランスフォーメーションユニット
    梶原侑馬氏

インターネットが誕生してから50年以上が経過したが、その進化は今もなお続いている。世界的に見れば、Web2からWeb3の時代へと突入している。

そもそもWeb3とは何か?Web3を構成する注目領域はどこか?フィットネスを組み合わせたときに考えられる未来像とは何か?といった疑問をもちながらも、把握できていないフィットネス事業者は少なくないだろう。そこで、株式会社NTTデータ経営研究所でビジネストランスフォーメーションユニットに所属し、同領域に精通している梶原侑馬氏より特別寄稿を授かった。

フィットネスビジネスにおける最先端技術・サービスの現状

インターネットの在り方において、Web2の次世代のインターネットとして自立分散的なWeb3が着目を浴びている。Web3において特にメタバースはIT業界を始め注目の的になっている。

Facebookがメタバースに着目し社名をMetaに変更し、東京大学でもメタバース工学部の設立が発表されたことを知る人も多いだろう。メタバースの統一された定義は現時点では存在しないのだが、2021年に経済産業省が公開した報告書によると、「1つの仮想空間内において、様々な領域のサービスやコンテンツが生産者から消費者へ提供される場」とされている。

メタバースやXRを活用したフィットネスサービスとして、ヘムブイアール株式会社(本社:スウェーデン)などは着目されている。従来のエアロバイクでは、同じ動作の繰り返しで退屈なこと、いつもの部屋では日常と変わらず気が散ること、仲間がおらず孤立・孤独であることなどが課題であった。VRやアバター等を活用しながら体験することで、新たな価値が生まれ継続率が高まると考えられる。

そして、メタバースに関連したデジタル・テクノロジーとして、NFTがある。

これは、Non-Fungible-Token(非代替性トークン)の略で、偽造が不可能な鑑定書や所有証明書付きのデジタルデータのことである。暗号資産(仮想通貨)と同じく、偽造や改ざんが難しいブロックチェーン上で発行および取引されており、アートやゲームそして、スポーツやフィットネスでも着目を浴びている。フィットネスにおいて継続率の向上だけでなく無関心層のフィットネスの参入にも着目されている。

そのなかで、Move to Earn(M2E)やSleep to Earn(S2E)が着目されている。ブロックチェーンの技術を活用したNFTゲームから派生した仕組みで、遊んで稼げるPlay to Earnのシステムが取り入れられている。

Move to Earnとは、歩く・走る・動くなどの動作によって仮想通貨を稼げるアプリやサービスである。STEPNはMove to Earnの先駆けとなったNFTゲームであり、スポーツメーカーのアシックスや、スペインのサッカーチームのアトレティコ・マドリードとも提携している。提携することで、アシックスなどはデジタル分野へ裾野を広げ、STEPNは非デジタル分野の幅広いユーザーへリーチすることが可能である。ウォーキング・ジョギング・ランニングを通じて報酬を獲得でき、購入したNFTスニーカーはSTEPNのアプリで実際にゲームに使用可能なほか、マーケットプレイス経由で販売して換金することも可能である。

これまでフィットネスに興味がなかった層がSTEPNを通じてフィットネスに興味をもち始めることが期待される。また運動を億劫に感じる人にとっては、睡眠時間の長さに比例して仮想通貨の獲得量が増えるようなSleep to Earnは、手間がかからずに始めやすく継続しやすい。日本人は世界的に見ても睡眠時間が短く、健康習慣をつけながら継続できる点はメリットである。

最先端技術を活用したフィットネスサービスの課題と今後の展開

メタバース等の最先端技術やサービスを活用したフィットネスビジネスの課題において、政治的要因として法律やガイドラインの整備、経済的要因としてデバイスの価格やマネタイズ、社会的要因として人材不足やキラーコンテンツ不足、技術的要因として、デバイス等の性能やデジタルコンテンツの規格統一などがある。フィットネス分野の応用について標準規格などの動向にも注目する必要があるだろう。

また、最先端技術を活用したフィットネスビジネスの成否を分けるうえで、GAFA(米国のIT企業大手4社の頭文字)のように、ユーザーを囲い、ビッグデータを活用しユーザーにとっても企業にとってもメリットの多いビジネスを展開することが、重要であると考えられていた。もちろん今後も重要な要素ではあると考えられるが、魅力的なコンテンツはより重要になるかもしれない。

メタバースやXRを題材とすると、フィットネスをメタバース空間で行うサービスの提供はもちろんのこと、フィットネスに関連する教育やメタバース内で必要となる能力を兼ね備えたトレーナーやインストラクターの提供サービスなどもあり得るであろう。一例として、伴走者やトレーニングパートナーとして、メタバース空間やXRを活用することも体験として面白いと感じている。

リアルとバーチャルの両方を楽しむことが日常化してくると考えられ、一緒に走っているという感覚もXR技術などを活用して体験できると考えられる。リアルに近い感覚により近づけていくのか、それともリアルとはまた違うオンラインならではの価値を示していくのか今後の展開は興味深い。映像や音響、体感や存在感などリアルのフィットネスで培ってきた知見もバーチャル上で活かされることは多いと考えられる。

そして、マーケティング関連のデータ取得や販売などにおいて、従来のインターネット以上にメタバースやNFT等を活用すると、多くの魅力的なデータを取得できる可能性があり、新たなデータ提供のビジネスモデル構築につながるかもしれない。

フィットネスビジネスは関心層がなぜ辞めたか、維持期の利用者がなぜいつもフィットネス空間に足を運び継続しているのかなど、行動変容関連の定性データや定量データが取得でき活用できる宝庫でもあると考えられる。

先行きが不透明で、将来の予測が困難なVUCAの時代において、最先端技術を含む異分野の情報も積極的に収集し行動していくことが重要になることは間違いないであろう。メタバースやNFT、XRなどのサービスにおいて、先発のサービスは多くあるが、後発組であるからこそのメリットも多くある。

GAFAでさえも後発組である。先発組をよく観察・分析し、弱点や課題を見抜き差別化したサービスを提供することは重要である。後発組の有利な点はそこにある規模のマーケットが存在しているという点でもある。

多くの課題はあるものの、サービス展開は現状なされており、メタバースなどのサービスにおいて、非定例的イベントでの体験、定例的イベントでの体験を経て、日常的な体験になっていくだろう。その際に、従来のフィットネスジムの場とは異なる、カラオケボックスのような空間であるフィットネスボックスでデジタルコミュニケーションを含むデジタルフィットネスを楽しみながら実施している未来も考えられるだろう。