セミパーソナルジム「FLATTE」は、20~30代の女性にターゲットした、延床面積20坪ほどのブティックジム。2021年6月にオープンした駒沢大学店に続き、2022年4月に2号店となる豪徳寺店をオープンした。
「FLATTE」はOMO(Online Merges with Offline)型のジム運営で、デジタルマーケティングを徹底的に活用したビジネスモデルを確立している。このOMO型のストレスフリーなフィットネス体験を支えるのが、フィットネス運営に必要な手続きがスマホで完結する「hacomono」というオールインワンシステム。ユーザーはスマホをタップするだけで、体験予約から入会、クラス予約を完結できる。手続きのためだけに店舗へ行ったり、体験やクラスを予約するために店舗へ電話をする必要がない。
その一方で、ジム運営側は、各種の事務手続きのDXにより業務を簡略化できるとともに、顧客の行動がすべてデータとして蓄積されるため、分析によって定着率の高い潜在顧客の入会率を向上させるオペレーションが可能になる。徹底的なデータ活用で、フィットネスのビジネスモデルを進化させる株式会社ファノーヴァの舟久保匡祐氏に話を訊いた。
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株式会社ファノーヴァ代表取締役舟久保匡祐氏
フィットネス参加の
心理的ハードルを下げるOMOモデル
20~30代女性を主要顧客に持つセミパーソナルジム「FLATTE」は、近所のカフェにふらっと立ち寄る気分になれる世界観を実現するべく、「ふらっと」と、カフェラテの「ラテ」を合わせた造語だ。「休日は寝ていたい」「だらだらな私」といった考え方を持つ若い女性のフィットネスの習慣化をサポートするジムとして、心理的ハードルを徹底的に下げるコンセプトでブランディングしている。このコンセプトの立案において、データ分析が重要な役割を果たしている。
舟久保氏は、元々インバウンド向け美容ビジネスを行うべく、同社を2019年に設立したが、コロナ禍でマーケットが縮小。その一方、自身も運動の大切さを再認識するなかで、日本におけるフィットネス市場のポテンシャルを感じていた。
特に、「運動が嫌いだったり、得意ではない、若い女性が気軽に通える店舗がない」ことに着目し、「なぜ彼女たちは今あるフィットネスの店舗に通わないのか?」「どんな店舗であれば通いたくなるのか?」を調査した。その結果から「ジムに通わない理由は、味気ない店舗デザインやストイックにトレーニングする雰囲気、来館や電話が必須な手続きのフローにあるのではないか」という仮説を導き出した。
そこで店舗づくりの参考にしたのが、20~30代の女性に人気のカフェや美容サロン。この世代にとって、カフェ検索や美容サロン予約はスマホからが当たり前であることから、「FLATTE」でも、同様のユーザー体験を実現。ジム検索から体験予約、入会手続き、クラス予約までスマホ完結にすることで、この層の参加を促せると考えた。
入会初期は、オフラインで、レッスンに慣れてもらったり、楽しさを感じてもらうことを意識しているが、ジムに行く気がおきない日でも、家からゆるくレッスンに参加できるようオンラインレッスンも提供している。OMO型にすることで、運動初心者である若年女性の、入会率と定着率を高められるビジネスモデル構築に至った。
スマホ完結によるデータの
一元管理と分析で、運営を進化
OMOとは、オンラインのサービスとオフラインのサービスを融合させて、シームレスな体験価値を提供するサービスモデル。中国では店舗ビジネスにすでに浸透している運営モデルだ。ユーザーはスマホの操作とともに行動を起こすことから、事業者側は、オンラインでユーザー行動が把握できることになる。「FLATTE」では、データサイエンティストを社内に配置し、体験予約から入会、レッスン予約まわりのデータを集積して、資料にある各種の数値を分析している。そこから主要KPIを導き出し、PDCAを回し続けることで、効果の高い集客施策や利用継続施策につなげている。
「FLATTE」では、このOMO型のビジネスモデルを実現するうえで、体験予約から入会手続き、会員管理までが、オンラインで一元管理できる「hacomono」を導入。ユーザーはすべての手続きがスマホで完結できる環境を整えた。
同じ広告費用でアクセス数が2倍!
「hacomono」の予約システムやweb入会システムによりフロントが不要となることで、まさに気楽に立ち寄れるカフェのような雰囲気でお客さまを迎えられることになる。また、各種手続きの業務負担を削減できることで、トレーナーとお客さまとのヒューマンタッチなコミュニーションを増やすことができ、セミパーソナルのグループ指導をベースに、オフラインならではの体験価値も高めている。
「hacomono」に記録される、体験予約からの入会率の分析データは、店舗デザインの改善にも活かされている。1号店では「フィットネススタジオ」のような内装、2号店では「カフェ」のような内装にしたところ、入会率に5%もの違いが出ていることがわかった。こうした違いもデータを確認することで、戦略的に入会率の高い店舗開発につなげられるようになる。
また、体験予約の流入チャネルごとの入会率の違いや、体験者の居住地域をはじめとしたプロフィールデータとの分析により、入会率の高いチャネルや居住地にプロモーションコストを配分することでも、入会率を高めている。チラシを使った施策で集客の効果を高めるため、住居データを分析し、集客に成功しやすいエリアを特定。それに基づき、配布エリアを変更した結果、チラシからのwebサイトへのアクセス数が2倍に増加し、同じ広告費用で2倍の成果を得ることができた。
入会率は、体験レッスンを担当するトレーナー別にも分析している。入会率が100%に近いトレーナーに体験レッスンを担当してもらうことで、入会率が高められるだけでなく、ほかのトレーナーも入会率の高いトレーナーから学ぶことで、全体の入会率を高められることになる。
定着率を上げるための
コミュニケーションを徹底
「FLATTE」では、多くの経営指標の中でも、この「入会率」と「定着率」については、トレーナーとも共有することで、業務改善につながっている。トレーナーの数値への意識が高まり、目標とする入会者数などに向けて、積極的に接客に取り組んでくれるようになったためだ。
「定着率」については、初回体験時にトレーナーがお客さまに7つの定性的な質問をしてデータとして残し、お客さまごとの解決したい悩みや目的をデータにタグづけして、利用動向をモニタリングしながら一人ひとりの気持ちに寄り添うサービスを実現している。
入会時に訊く質問の中でも特に重視するのが、以前のフィットネスが「なぜ続かなったのか」。そして、入会時に「通うイメージ」や「入会した理由」を聞いて顧客一人ひとりの利用動向データと紐づけることで、タイムリーに、的確なコミュニケーションがとれるようになる。
「FLATTE」では担当制を敷いており、トレーナーが体験などで担当したお客さまとの会話を「hacomono」に記録しておくことで、そのデータと利用動向を見ながら、LINEを使って一人ひとりに合ったコミュニケーションをとり、定期的な来館につなげている。
現状、週2回以上の利用があれば、在籍期間が延びることがわかっており、特に入会から4ヶ月間は、メンバー一人ひとりの利用頻度をモニタリングし、入会初期の質問から得た顧客のインサイトに合わせた声がけで、定期利用につなげている。
トレーナーがこうした時間がとれるのも、事務手続がDX化されて、業務負担が減ったことによるものであるとともに、「hacomono」の直感的に使えるインターフェースで、トレーナー自身もストレスなく顧客管理業務ができている。
今後、トレーナーによるフォロー内容と継続率の関係もデータが蓄積されていることで、声がけの頻度や内容も適正化されていき、定着策の業務効率も高められることになる。
「hacomono」の導入により事務作業を削減するだけで満足することなく、生まれた時間や蓄積されたデータを使い、常に運営を改善し続けている「FLATTE」。同社では2024年から、フランチャイズ展開も視野に入れており、こうしたデータに基づいた店舗開発と運営オペレーションの進化は、フランチャイズビジネスでも活きていくに違いない。OMO型ジムオペレーションの浸透で、日本のフィットネス参加率が高まることが期待される。