フィットネス業界では、会員獲得単価が年々上昇し、キャンペーンでの価格訴求だけでは、入会にも長期的な定着にもつながりにくくなってきている。事業者は今後に向けてどのような戦略を立てるべきか。これまで延べ1,500社以上への製品導入を支援し、事業推進担当として、提案活動や営業支援を中心に担当している、STORES 株式会社(以下、同社)の浅利圭介氏に具体的な施策や展望について訊いた。
-
STORES 株式会社
ビジネスグロース部門事業推進本部
浅利圭介氏
価格・設備競争から体験価値競争へ
運動する目的や理想への道筋は、利用者の体力や年齢、身体レベルにより多岐にわたる。それゆえに「一人ひとりに合わせた的確な指導を提供することが大切」と何となく思っている事業者は多いだろうが、自社の内部資源と外部環境をきちんと評価し、経営戦略やマーケティング戦略の立案を行っているだろうか。
そうした現状に対し、「体験価値の高さやトレーナーの専門性が競争のカギになりつつある」と話す浅利氏。その背景には、会員の目が肥え、成果を実感できなければ離脱しやすいという課題があるという。
だからこそ、インストラクターの質を土台に、デジタルを活用して成果の可視化や継続の動機づけを行うことが、顧客満足度と収益の両立に不可欠だと考えている。

獲得から定着まで、一気通貫で管理
では、実際にデジタル技術をどのように活用すればよいのか。同氏は「会員の獲得と定着を、一気通貫で捉えること」が重要だと強調する。
従来は広告での新規獲得と、その後の定着施策が分断されがちだった。しかし、予約・来店・決済といった一連のデータを統合すれば、LTV(ライフタイムバリュー)を可視化し、最適なタイミングで会員に介入ができる。
同社は予約、決済、EC、レジ、アプリといった複数のプロダクトを統合し、CRM上にデータを一元管理する仕組みを提供している。これにより、事業者は単発的な分析ではなく、継続的にパーソナライズされた会員理解と関係構築を可能にする。現場のトレーナーにとっても、カルテや利用履歴が一覧化されることで、サービスの提供が効率化され、結果として会員体験のクオリティ向上につながる。
適切な機会に、適切なフォローを行う
こうしたデータ統合は、エンゲージメント施策の高度化にも直結する。例えば、回数券の残数が少ない会員や、一定期間来店していない会員を自動抽出し、LINEやメールでフォローを行う仕組みだ。これにより「よきタイミングでよき連絡をする」ことが可能となり、押しつけではなく適切な気遣いとして受け止められる。
予約、決済管理におけるオペレーション工数の削減を目的に、同社のシステムを導入した事業者から「アナログの手法をネット予約に切り替えたことで、スタッフと会員さま双方の負担を減らすことができた。回数券の購入や残数管理もシステム上で完結できるので、お客さまに必要なタイミングで確実にアプローチできている。結果、購入率が高まり、売り上げ向上にもつながってます」という喜びの声も届いている。
事業者には会員の継続率や購買額の向上というメリット、会員にとっては自分に合わせたパーソナルな提案が受けられる点が大きな魅力だ。

AI 活用で広がる未来
今後、AIの活用によってさらなる進化が期待される。退会予測や個別の嗜好に基づくプログラム提案といった仕組みが現実味を帯びてきた。
浅利氏は「まずは現場のトレーナーや会員が使いやすい環境を整え、そこに蓄積したデータをAIで活用していく二段階の発展が望ましい」と語る。
フィットネスは人と人との関係性に価値がある産業だからこそ、デジタルはあくまで補完の役割。しかし、その「補完力」がトレーナーの負担を減らし、適切なタイミングで適切な提案を届けられる世界を実現する。
フィットネス事業者にとって、デジタル戦略はもはや選択肢ではなく、未来を切り拓く必須の武器といえる。
顧客管理の深化と効率化の両立
その意味で同社のシステムは、収益改善だけでなく、会員満足度の向上を支える新たなスタンダードになりつつあるのではないか。
