オンラインフィットネスはコロナがパンデミックになる前から存在しており、一定のニーズはあった。当時は、店舗運営に専念をしていたフィットネスクラブが多かったのではないだろうか?

しかし、コロナによって状況は大きく一変したことだろう。フィットネスビジネス編集部および月刊NEXT編集部では、長年に渡って独自に取材を継続してきた。タイトルにもある通り、オンラインフィットネスがどのように変化をしてきたのか、過去の取材のうち要点をピックアップして掲載する。そして今後はどのような動きが予想されるのかについて触れる。

本記事をオンラインフィットネスの流れを掴むために、お役立ていただきたい。もし過去の取材記事詳細を振り返りたいのであれば、以下のバックナンバーを読み返してもいいだろう。

月刊NEXT通巻第155号

フィットネスビジネス通巻第109号

フィットネスビジネス通巻第110号

ビフォーコロナのオンラインフィットネス

まず、月刊NEXT通巻第155号(2019年12月25日)の「アフターデジタル時代のフィットネス」を振り返る。「アフターデジタル」とは、2019年3月に日経BP社から出版された書籍のタイトルで、デジタルが完全に浸透した世界でのビジネスのあり方が示唆されている。

同書に「オフラインがデジタル世界に包含される」と示唆されているなかで、アフターデジタル時代のフィットネスの動きを探った。この数か月後にコロナが発生し、変化は加速していくことになる。

以下、3事例を紹介するが、海外からオンラインでフィットネスプログラムが店舗に提供されるもの、ジムだけでなく自宅でもフィットネスができるアプリのさきがけとなるサービスを取材してきた。

ラディカルフィットネス

ラディカルフィットネスは、アルゼンチンに本社があり、世界に向けてプレコリオプログラムを配信してきているが、欧州のクラブを中心にバーチャルレッスンのニーズが高まってきた。それを受けてバーチャルシステムを開発し、2019年秋から提供を開始。プロジェクターやLEDスクリーンに投影する。

日本でも2020年4月から提供を開始する予定であった。人気プログラムの「ファイドゥ」や「ラディカルパワー」を始めとする全11種類のプレコリオプログラムを動画で配信する。スクリーンに登場するのは世界トップレベルのインストラクターだ。

バーチャルプログラム配信にあたっての契約料は、リアルレッスンの契約料より若干割高であるものの、指導インストラクターのレッスンフィーや研修費が発生しないため、全体のスタジオレッスンのコストを低減することができる。

バーチャルシステムで、レッスンが提供できる機会が広がり、今までレッスンの時間にスケジュールが合わなかった人や、インストラクターが少ないエリアでも参加が可能となる。

オレンジセオリー

オレンジセオリーは2010年にフロリダ州で1号店をオープンして以来、革新的ブティックスタジオとして、フランチャイズ方式で急成長を続けている。その成功要因に、最大心拍数80%以上で12分運動することによるアフターバーン効果を狙うという医科学的根拠に基づいた分かりやすいコンセプトと、グループパーソナルトという継続にも成果にもつながると注目されているレッスンスタイル、そして、最新テクノロジーと運営マニュアルによる徹底したサービス品質の標準化が挙げられる。

日本では、オレンジセオリー・ジャパン株式会社が2016年11月に青葉台に1号店をオープンし、今後10年で200店舗の展開を計画している。

オレンジセオリーのプログラムは日替わりで、クラスメニューは1週間分がフロリダの本部から全世界のオレンジセオリースタジオに配信され、スタジオに設置されているメニューでメンバーとも共有される。

メンバーはウェアラブルで心拍数を測定しながらレッスンに参加するが、その心拍数データは世界中から本社に集められ、確実なアフターバーン効果が得られるようにプログラムは常にブラッシュアップされていく。フロントでのオペレーションは極めてシンプルで、次回利用の予約を徹底することを最優先。管理画面で各レッスン参加者のプロフィールとともに、次回の予約が入っていない人が一目で分かるようになっており、声がけする。

東急スポーツオアシス

東急スポーツオアシスは2015年に「オアシスリンク」を、もりのみやキューズ店に導入して以来、「自宅をオアシスに」をコンセプトに、デジタルを融合させたクラブ体験を提案してきている。同年「ウェブジム」もリリースし、「24時間オンラインフィットネス」をコンセプトに、日常生活の中でフィットネスを始めたり続けたりできるようなオンラインコンテンツを拡充してきている。

「オアシスリンク」は、クラブメンバーの目標達成をサポートするアプリで、クラブでのカウンセリングでメニューがつくられた後、クラブ内では近距離無線通信規格のNFCを搭載したウェラブルで利用履歴が記録され、運動量が換算されてアプリに記録される。

日常のフィットネス習慣をサポートする「ウェブジム」は、オアシスのオンラインショップと連携してホームフィットネス市場に浸透しつつあるが、クラブコンテンツとの連携も強めて、ジム利用へ繋げることも企図した施策も強化。また、スマートスピーカーが家庭に浸透していくことを見越して、アレクサスキルでのエクササイズコンテンツ配信もスタート。

コロナ発生直後のオンラインフィットネス

次に、フィットネスビジネス通巻第109号(2020年7月25日)のHITITEM(商品研究)の「オンラインフフィットネス」を振り返る。今号はちょうど1回目の緊急事態宣言が解除されて最初に発刊した号となる。

コロナ発生直後、フィットネスクラブ各社がどのような動きをしてきたのか、4社の事例の要点を掲載する。店舗に足を運ぶことが最も厳しく制限されていた時期における、各社の創意工夫と試行錯誤が見て取れる。

ルネサンス

株式会社ルネサンスは2〜3年前からオンラインレッスンの提供方法を模索し、昨年からイベント的に行っていた。コロナにより会費収入がなくなり、またインストラクターの働く場もないなか、来館に頼らず提供できるサービスが早急に必要となり、オンラインレッスンが加速した。

当初から課金して展開することを目的とし、4月はテスト配信として無料で行い、5月のGWはイベント価格(330円/回)で提供した。品質が担保できたことから、6月15日から月額制(3,300円/月)と都度利用制(550円/回)を設けている。一方で、会員専用アプリ「My ルネサンス」内ではMOSSAやレズミルズのほか同社オリジナルプログラムを6月末まで無料で配信した。

展開プログラムは、音源の使用制限を考慮したうえで、オンラインで参加しやすい、初級エアロビクス、オリジナル格闘技系、バレトン、ジム&ラン、ヨガなどからスタート。参加者が多いのは、アクティブ系プログラム。汗をかける、動きがシンプルなプログラムが人気を集めた。

セントラルスポーツ

セントラルスポーツ株式会社は2020年4月から、YouTube「セントラルスポーツチャンネル」による動画配信をスタートした。短期間で制作する必要があったため、社内でシナリオをつくり最小人数で撮影・制作した。

試行錯誤のすえ、最初は5分程度の動画を毎日1〜2本ずつ会員さまへの限定公開として配信。以降は公開配信に切り替え、さらにLIVE配信も始めた。LIVE配信プログラムの閲覧数は500 〜 800名だ。会員向けアプリやSNS、ホームページで案内している。

視聴者数が多いのは、リアルでも人気のファイトアタック、シェイプパンプなどだ。オンラインではヨガなど静的なプログラムではなく、アクティブ系のものが人気を集めた。汗をかきたい、ストレス発散したいというニーズにマッチしていたと言える。

オークスベストフィットネス

株式会社オークスベストフィットネスは、2020年4月から、契約企業の福利厚生としてエクササイズ動画を配信している。企業の従業員満足度が高く、今後も継続していく予定だ。

在宅勤務および自宅待機になっている従業員向けの福利厚生として運動を提供したいと相談を受けたことがきっかけだった。同社はそれまでオンラインレッスンは提供しておらず環境もなかったが、これを受けてミキサー、カメラ、モニターなどの機材を購入。遊休スペースをスタジオとして整え、すぐに提供を開始した。

契約している企業が従業員向けのアンケートをとったところ、非常に好評だったことから5月からは有料での契約となり、週に3本、30分のレッスンをLIVE配信で提供している。筋トレ系のレッスンとストレッチ系のレッスンを展開しており、強度高めのプログラムへの参加者が多い。

アイレクススポーツライフ

アイレクススポーツライフ株式会社は2020年3月から、YouTube「アイレクススペシャルチャンネル」による動画配信をスタートした。同社も録画配信からスタートし、その後はLIVE配信も開始。

LIVE配信を始めたのは、双方向のコミュニケーションをとるため。試験的に行ったところ反応がよく、録画配信よりもインストラクターのモチベーションも上がった。一方で、録画配信はいつでも見られるため、運動継続のモチベーションを保ちづらいという課題があったが、LIVE配信はチャットでインストラクターが応じることができる。会員さまは単純に運動したいだけでなく、コミュニケーションも楽しんでくれているのだ。

展開しているプログラムは、ストレッチや筋力トレーニング、エアロビクス、ヨガなどのフリープログラムが中心だ。再生回数は、プログラムの内容よりもインストラクターによる。リアルなスタジオレッスンでも人気で進め方が上手なスタッフのレッスンは再生回数が多い傾向にあるようだ。

ウィズコロナのオンラインフィットネス

次に、フィットネスビジネス通巻第110号(2020年9月25日)のFeature(特集)の「リアルとデジタルの融合」を振り返る。今号の発刊は店舗に徐々に会員さまが戻り始めてきた時期である。

リアル店舗とオンラインが共存する時代に突入し、そのなかの事例を3つ紹介する。元々オンラインでサービスを展開していたスタートアップが、既存のフィットネスジムと提携を進める流れが起こっている。

SOELU

ヨガを中心に多様なフィットネスプログラムを、双方向での少人数制オンラインLIVE配信サービスを軸に提供しているSOELU株式会社。2018年3月のサービス開始。コロナ後はさらに受講者を増やしてきている。

同社にはヨガやピラティスの指導ができる登録インストラクターがおよそ200人在籍していて、早朝5時~深夜24時まで、30 ~ 60分間のレッスンを毎日100クラス程度提供しているが、毎クラスほぼ定員に近い参加者があるほどの盛況ぶりとなっている。

価格は、これまでにあった1回の無料体験に加えて、参加しやすいよう月2回参加できる1,980円~/月(税込2,178円)を新設。さらに月5回参加できる3,980円〜月(税込4,378円)と通い放題の5,980円~/月(税込6,578円)を用意している。

※12ヵ月コースに申し込んだ場合の料金

同社は一度はクラブに入会したものの、なかなか続けることができずに辞めてしまったという人に訴求していくことで、習慣化のサポートをするのと同時に、フィットネスクラブとの提携を模索していくようだ。

Beatfit

2018年4月にβ版をリリースし、サービス展開を開始した音声フィットネスアプリ「BeatFit」。コロナ後ホームフィットネス需要が急拡大し、BeatFitも成長した。いつでもどこでも使える気軽さに加え、トレーナーの音声と効果的な音楽がモチベーションを刺激してくれることや映像レスだけに逆に運動に集中できることが受けて、確実に利用者が定着してきている。

サブスク型のモデルをとり、個人会員は月契約の場合1,480円(税込)・年間契約の場合9,800円(税込)で提供している。携帯から音声と音楽でトレーニングをサポートすることを主体としているが、フォームなどがわかりにくいエクササイズは動画などで補完している。

コンテンツは11ジャンルあり、アウトドア、ジム、自宅のそれぞれでできるエクササイズ、マインドフルネスなどのメンタルなエクササイズからHIITなどのフィジカルなトレーニングまで、幅広く揃えている。

2021年4月に「Beatfit for Gym」という、ジムにいてもいなくてもジムの会員様にフィットネスコンテンツを提供することのできる施設運営企業向けに活用したソリューションを開始。ルネサンスの各店舗で随時導入していく。

LEANBODY

2018年4月にサービスローンチし、2年6ヶ月が過ぎ、新規参入ベンチャーながら、国内最大手のサブスク型オンラインフィットネスサービスとなっている株式会社LEAN BODY。ビリーズブートキャンプなどのリッチコンテンツも含め、ヨガやダンササイズ、筋トレなどのクラスを提供している。

料金体系は、月単位の契約での月額1,980円(税込)と、年間契約したうえで月額980円(税込)を支払う2プランを用意しており、興味をもったサイト訪問者には2週間の無料体験期間が用意されているため、安心して契約できる。

2020年6月には、首都圏を中心に「メガロス」ブランドでフィットネスクラブを展開する野村不動産ライフ&スポーツ株式会社と提携。同社の会員(オンライン専用会員を含む)向けにLIVEコンテンツと併せて配信できるサイトを用意している。

海外事例から学ぶアフターコロナのオンラインフィットネス

最後に、ワクチン接種が進むアメリカでどのような動きが起こっているのかをまとめたCNBC社の記事を翻訳し、要点を整理する。フィットネスクラブに通えるようになった消費者としては、在宅フィットネスへの関心が薄れているようだ。

参考:https://www.cnbc.com/2021/06/18/americans-back-to-gyms-interest-in-at-home-workout-wanes-jefferies.html

自宅でのみ運動をし続けるということは、ロックダウンや緊急事態宣言といった有事の選択肢のひとつであり、世の中が正常化に向かうに連れて、より多くの選択肢が生まれてきている。その一つがもちろん、ジム通いの再開と言えよう。日本でもこの潮流はいつかやってくる。そのときにユーザーに喜ばれる体制を整えられるかがカギとなる。

アメリカでは83%もの会員がジムに復帰

ワクチンの接種とコロナによる規制が緩和され、より多くの人がジムに戻るようになっていることが、新たな調査で明らかになった。2021年5月の時点で、全国のジムの利用者数は2020年1月の水準の83%に戻っており、2019年の同時期に比べてわずか6%減少していることが分かった。

在宅フィットネスの関心が低下

ジェフリーズ社の調査によると、より多くの人々が家を出てジムに戻るようになったため、近隣のジムの検索は伸びている。

一方で、家庭用フィットネス機器やデジタルフィットネスプレーヤーの検索は緩やかになっているという。同社は、バランスボール、ダンベル、ヨガマット、縄跳び、マッサージガン、ウェイト、フォームローラー、エクササイズバイクなどの検索を調べ、今年の1月以降、関心度は急落しているとしている。

「Peloton」などのデジタルフィットネスプログラム、「Tonal」や「NordicTrack」などのデジタルワークアウトプラットフォームへのオンライン検索も同様の結果を示している。

オンラインフィットネスが共存するためには

ジェフリーズ社のアナリスト、ランディ・コニック氏は「人々は、豊富なデジタルコンセプトと伝統的なジムでの経験を利用した、ハイブリッドなアプローチを採用すると考えています。このモデルを支持するジムが、今後数年間で勝者となるでしょう」と述べている。

サイクルメーカーのPeloton社やローイングマシンメーカーのHydrow社などの企業は、昨年、家庭用ワークアウト用品を求める消費者から大きな利益を得たが、この勢いを維持する方法を模索している。

まとめ

以上、コロナの発生前後でオンラインフィットネスにどのような動きがあったのかを時系列で過去の取材に基づいてまとめてきた。アフターデジタルの世界観はコロナをきっかけに、将来的にやってくるという認識から、今すぐ対応しなければならないという認識に変わったのではないだろうか。

フィットネスサービスはリアルでオンラインでも提供できるという選択肢を用意すると、ユーザーはそのときどきで最適な方法で利用できる利便性を享受できる。

時代に適したサービスは何か、フィットネスビジネス編集部および月刊NEXT編集部で取材を今後も継続していく。フィットネス事業者がいち早く導入し、効果を得られることを願っている。