高広伯彦氏
株式会社スケダチ
代表取締役社長

 

生活者のセルフサービス化に対応せよ

博報堂、電通、Googleとキャリアを重ねた後、マーケティングコンサルタント/広告・メディア事業コンサルタント/コミュニケーションプランナー/社会構想大学院大学特任教授、そして京都大学経営管理大学院の経営科学専攻サービス・イノベーション&デザイン領域で博士号を取得するなど、たった1つの肩書きに収まることができないほど、幅広い領域の業務と学術の両方に携わっている株式会社スケダチ 代表取締役社長 高広伯彦氏。

これまでの経験と知識から、B2C / B2Bを問わず、あらゆるマーケティングと、マーケティングサービスの事業開発をカバーするところに強みを持つ同氏。特に“コンテクスト”を重視したコミュニケーション企画(※著書『次世代コミュニケーションプランニング』(SBクリエイティブ刊)に詳しい)や、インバウンドマーケティング/コンテンツマーケティング、B2Bデジタルマーケティング(同書)およびメディアビジネスのコンサルティングについては、それぞれの領域の専門家として、コンサルティングや企画者として関わるだけでなく各企業・各セミナーなどで講師を務めることも多く、深い知見を併せ持つ。

また同氏は、トレイルランニングや登山ガイド資格(東京都山岳連盟プロガイド)を持つスポーツ愛好家である。そんな高広氏に、フィットネス事業者が、これから科学的思考を活用して経営・運営し、成果を挙げようとする場合のキーポイントについて、訊いた。

日本のフィットネス事業者を含む、多くの既存のサービス産業に従事する事業者が、相変わらず属人的な経営・運営を続けていて、なかなか新しい価値を創出して成長できないのはなぜなのだろう? どうして外部環境の変化にダイナミックに対応して、次々と新しい価値を備えたサービスや革新的な新規事業を生み出し成長していくことが難しくなってきているのだろうか? それは、どんなところに問題があるのか? まず、同氏に思うところを訊いた。

「まず、そもそもサービス業と呼ばれるものの多くは、人的あるいは対面型の事業です。そのため、“属人的であること”というのはサービス業が孕む本質であり、課題でもあります。そうであるとすると、事業者側が一方的にサービスを提供すれば完結するというものではなく、お客さま側からの期待値が大きくなったり、変化したり、従事者ごとにスキルが違っていたりということが結果に影響してくるというのは当然のことでしょう」

同氏は、サービス業の前提として、こうした特徴があることを押さえたうえで、「サービスというのは、従業員とお客さまとのインタラクション、やりとりで成立しているのです」とその本質に迫る。

さらに、ここしばらくのサービス業の新しい流れとして、「セルフサービス化する世界」(高広氏)が、生まれつつあると指摘し、その変化について、次のとおり説明する。

「これまではサービスが提供されるためには、従業員とお客さまが、同じ場所に同じタイミングで存在する必要がありました。しかしながら、最近では、『マクドナルド』などのファストフードや『スターバックス』のモバイルオーダーがその象徴的な事例と言えましょうが、フィットネス産業でも『カーブス』や『chocoZAP』がそうであるように、ほかにはモバイル上でアプリなどで提供されるエクササイズサービス、あるいはYouTubeでエクササイズ動画を提供しているYouTuberなどによって、お客さま側が『セルフ』でサービスを受けられることが普通の時代になってきています」

同氏は、こうした「セルフサービス化」の流れにおいては、2つの要素が重要になっていることを指摘する。

「それは、(1)使いやすいUI/UXで提供されているか?=お客さまが使い方を迷うようではセルフサービス化できません。また、(2)お客さまの学び=お客さま自身がselfeducation、自ら学ぶ環境や教材を提供できているか? お客さま自身が成長し、自ら継続的により良くサービスを使うようになっていくという仕組みです」

そのうえで、「事業者が、こうした環境変化に対応するには、マーケティングや事業開発・サービス開発の基本である、お客さまがどういった意識にあり、何を実現したいのか、またそれにかける時間やコストはどう考えているのか ―例えば、エクササイズをするのに、かつてのように施設に出向いて、家に帰るまでに2~3時間をかけるというのではなく、スキマ時間を効率的に使い、5分でエクササイズを終えたいというように―、またお客さまのライフスタイルや生活時間はどのように変化をしていて、どんなサービスが好ましいと感じているのか、といったことへの認識が必要となるわけです」と述べる。

そして、事業者が採るべき方向性を、こう示唆する。

「おそらくですが、これまでの『場所』『コンテンツ』にこだわってしまうと、お客さまや環境の変化に合わせた変化を自ら行うことが難しくなってきてしまうのではないかと思います。ただ、だからといって、今ある資産をすべて捨てて変化をせよ、ということではありません。もともとシュンペーターが唱えた『イノベーション』という言葉も、全く新しいことを発想し、実現するということではなく、『新結合』『新しい切り口』という意味合いを持っており、現状の資産をどのように『組み合わせ直す』のかということです。その『組み合わせ直し』をお客さまの変化に合わせて、どうフィット感が得られるものにできるかどうかが大事になるのだと思います」