高広氏は、サービス産業においては、(客観性を重視した自然科学的な意味での)科学的な見方をするのではなく、顧客の声の変化に着目するなど、エスノグラフィー的な視点で捉えて、新しい価値を備えられるようにサービスをリ・デザインしていくことの手掛かりにしていくことの重要性を強調している。

同氏は、科学的なるものを否定しているわけではなく、将来において、今は科学と言われていないものが科学的と呼ばれるものになっていく可能性が高い考え方を示していると考えることができる。

人を入れ替えることも必要に

科学的思考経営を「組織」「チーム」で進めていこうとする際に、障害になりそうなものやそれを取り除く方法などは、あるのだろうか?高広氏は、「想定される最大の障害は『混乱』でしょう」と述べ、次のように「混乱」を招く原因について説明する。

「この『混乱』というのは、アンラーニング(unlearning)ができないことによるのでしょう。これまでと違うやり方、思考を行うには、従来の考え方を一旦解きほぐさないといけませんが、それができなくてついてくることができない人たちが出てくることによって、ある種の『混乱』が起こるのだと思います」

では、この「混乱」は、いかにすれば、取り除くことができるのだろうか?

「ここで取り得る方法の1つとしては、チームとしてunlearnできる環境・ワークショップを行うことと、あるいは、ついていくことができない人を辞めやすくする環境も必要になると思います。これは、ある外資系企業の話ですが、デジタル領域に事業の舵を切る際に、まず第一に社員教育を行い、次にそれでも変わらない人は辞めてもらい、そして新しい人を取り込む、という組織改革を行っていました。結局、事業が人によって構成されているのであれば、その人の“雇用”を大事にするという方法だけでなく、人を入れ替えることもこれから先はますます必要になってくるでしょうし、実際に相当起きている話だと思います」

「戦略は組織に従う」(チャンドラー)の言葉通り、今、コーポレートガバナンス・コード改訂により、上場企業に対し、取締役会スキルマトリックスの開示が求められることになってきているように、これからの時代に相応しい経営を推進していくうえでは、それに必要な人的資本を拡充していく必要があるということなのだろう。

最後に、高広氏に、今後、フィットネス産業は、いわゆる科学的思考経営の推進と普及により、成長できるポテンシャルはあるかどうか?成長できるとしたら、何がカギになるのか? どんな展開や展望がイメージできるか? 率直な見通しを訊いてみた。

『セルフサービス化する社会』に対応すること。これに尽きると思います。ただし、chocoZAPのようにセルフサービス型の施設を用意するということではなく、顧客の体験価値を高め、ビジネスモデルを機能させるために、どの部分は従業員が関わるサービスとして提供し、どの部分はセルフサービスにするのか、という適切に切り分けられ整理されたサービスデザインを行うことが大切になると思います」

生活者も時代に合った様々な新しいサービスを受けながら暮らしているので、それに合わせて価値観や行動様式も少しずつ変わってきているはずだ。そうした変化を捉え、時代にフィットするサービスをつくり、その価値をきちんと提案していくことが大切と言えよう。

「食事を摂りたいという人がいる限り、外食産業が存在するのと同じように、身体を動かしたいという人がいる限りフィットネス産業も存在する」(高広氏)

工夫次第で、まだまだフィットネス産業は、成長できる余地は十分にある。

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