フィットネス事業者の運営・経営改善には色々な方法がある。幅広い業界において、経営改善をサポートする株式会社船井総合研究所(以下、船井総合研究所)の竹留将聖氏は、その1つとして、データ活用を挙げる。なぜデータが必要なのか、どのようなデータを取得すべきなのか。また、データを取得するために有効なCustomer Relationship Management(顧客管理システム:以下、CRM)の導入状況について、訊いた。
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株式会社船井総合研究所レジャー&スポーツ支援部 スポーツビジネスグループマネージャー 竹留将聖氏
利便性の向上で予約からの来店率が9割以上に
竹留氏によると、同社と取引のある約50社のフィットネスクラブやスポーツスクール、治療院、整体、エステティックサロンなどのうち、実に9割以上が何らかのCRMを導入しているという。同氏は、その背景に、コロナ禍に非対面でサービスを提供する必要があったことや、機能は限定されるものの、無料で利用できるツールが増えたことがあると述べる。
「コロナ禍を経て、体験へのお問い合わせ方法の1つとして導入する店舗が多かったのがLINEです。実際、以前は友だち追加から実来店につながる割合が7割と効果もありましたが、今では約5割に減少しています。LINEを利用する場合、来店日時を店舗側とやりとりする手間が発生しますが、今は見慣れたカレンダー形式で、お客さま側で体験枠の空き状況の確認から予約まで完了できるCRMが一般的になってきたことが要因と考えられます。受け入れ態勢を整え、十分な体験枠を用意できていれば、予約の9割以上が実来店につながっています」
お客さまにとって利便性の高い運営フローを実現することが、新規顧客獲得に向けた1つのポイントになるといえる。同時に、店舗側の業務を効率化できることも、CRMを導入する店舗が増えている要因だろう。
データ活用でニーズを発見
売り上げ1.2 倍を実現
CRMの導入により、顧客の利用動向がデータとして取得しやすくなる。
竹留氏はこのデータが経営改善に取り組む際にとても重要だと述べる。
「常日頃からデータを取得している企業ならば、企業規模にもよりますが約1ヶ月で改善に向けた施策を実行できるでしょう。そうでない場合は、まず問題点を把握するために、必要なデータを取得する必要があります。前者と後者では施策の実行まで数ヶ月単位の差が出ます。体感で施策を打つことも可能ですが、弊社としては的確なアドバイスが難しくなります」
では、まずどのようなデータを取得しておくとよいのだろうか。竹留氏は、売り上げを構成する要素となる客数、客単価、来店回数は、最低限、取得してほしいと述べる。日々データを確認することで変化に気づきやすくなるほか、「声かけ」や「キャンペーン」など、変化の要因も分析しやすくなる。
「特に、来店回数においては、一定期間内の来店が特定の回数以下の会員を退会予備軍としてアラートをあげるように設定しておくといいですね。アラートが発生した方にはカウンセリングなどの対策を実施することで退会を抑えられる可能性が高まります」
そのほか、あるセミパーソナルジムではデータを基に売り上げを1.2倍にすることに成功したという。
「月4回・6回・8回のチケットプランがあり、月4回が人気でした。しかし、価格が安いため、とりあえず選択しているだけなのではないか、本当はもっと利用したいのではないか?と、試しに1ヶ⽉間『通い放題プラン』を導入してみたところ、6回以上来館する方が多くいたんです。そこで入会1ヶ月目は通い放題とし、2ヶ月目に入る際に、スタッフが月6回や月8回プランをお勧めするようにしたところ、売り上げが1.2倍になりました」
お客さまが声にしないニーズをデータから発見できたうえ、スタッフも客観的なデータを元にニーズを確認できたことで、積極的に高価格プランを提案できるようになったという。
CRM の導入が必要不可欠な時代に
CRMにも様々な種類があるが、その1つとして挙げられるのが、ウェルネス/運動施設向けオールインワン・マネジメントシステム『hacomono』だ。入会手続きから決済、予約手続きまでを自動化できるほか、日々の顧客の利用動向を蓄積し、手軽にデータを抽出できる。これまでにフィットネスクラブを含む5,000店舗以上に導入されている。竹留氏は、ITへの苦手意識や操作に不慣れなどの理由からCRMの導入に踏み切れない場合は「船井総合研究所や『hacomono』などのシステム会社に気軽に相談してほしい」と次のように強調した。
「人口減少が進むなかで、CRMの力を借りて生産性を高めていくことはもはや必須といえます。これはフィットネス業界に限ったことではなく、『それは本当に人がやるべきことなのか?』という作業があらゆる業界でまだ多く残っています。CRMを導入することで、確実に時間的な余裕が生まれます。その時間を、新商品開発やお客さまとのコミュニケーションに使いましょう。今後は“時間の使い方”を変えていくことが大切です」
自店舗の価値を未顧客に伝えるためにも、スタッフがやるべきことの選択と集中が必要な時代となっている。