かつてフィットネスクラブ事業会社の経営幹部として活躍した松栄勲さん。「痛みで困っている人を世界から救いたい」との思いのもと、独自で開発した治療技術を『マツエセラピー』として体系化。2017年に「国際治療リハビリテーション研究所」の前身となる「国際治療協会」を発足し、以来、定期的な研修会を通じて、その知見を共有している。マツエセラピーは、トップアスリートにも広く支持されており、その実績と知見を活かすことで、フィットネスやトレーニングに治療的な意味づけが可能となり、フィットネスを「予防医療」「運動療法」として活用できることが期待されている。

  • 国際治療リハビリテーション研究所
    代表理事
    松栄勲さん
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国際治療リハビリテーション研究所(I CR-Lab)とは

国際治療リハビリテーション研究所(ICR-Lab)は、松栄勲さんが開発した「マツエセラピー」を、実践に活かす研修会で、毎月ケーススタディ形式で情報共有が進められている。

マツエセラピーは、解剖学・生理学・姿勢学・心理学・神経科学等を基にした総体的な施術法で、「VIM(Voluntary Inhibition Method) 軟部組織の積極的抑制法」「Object Muscle Relax Method 対象筋弛緩法」「Neural Transmission Dynamics Method 神経回路ダイナミクス法」をはじめ10の治療技術に体系化されており、5段階の資格制度に沿って習得できる。毎月の研修会を通じて、実際の怪我や障害への対処と、治癒から現場復帰までの記録をもとに学び、実践力をつけていく。松栄さんはこう説明する。

「痛みや身体に不調を抱えている人は、まず病院に行きますが、軽症の場合は、くすりが出されて保存療法になり、重症の場合でも、手術するか、保存療法にするかの二択になる場合がほとんどです。このとき、手術にしても、保存療法にしても、治癒するまで時間がかかることから、体力低下や機能低下のリスクがありました。マツエセラピーは、この体力低下と機能低下を最小限に留めながら、身体機能を回復させる手法として開発したものです。例えば靭帯の損傷の場合、靭帯は保存療法では治癒しないことから、重症度によって手術が必要と判断されます。マツエセラピーでは、急性期の腫れや痛みなどの身体の反応を最小限に抑えるとともに、損傷した靭帯の機能を代替する、組織や筋肉を活性化することで、手術をしなくても、損傷する以前と同等に動ける身体を、短期間に取り戻すことができます。身体の仕組みや機能はとても複雑で、損傷した部位や度合いによっても対処が変わり、患者さんの年齢や体力レベルなどによっても対処が変わってきます。そのため、知識としてマツエセラピーを習得しながら、実際の事例をもとに、治療の進め方を判断する観点を学んでいくことが重要です」

フィットネスクラブを、「予防医療」「運動療法」施設にする方法

近年、運動療法が注目されてきており「ファンクショナルトレーニング」や「ピラティス」を中心に、フィットネスクラブでも導入が進められている。だが、パーソナルトレーニングなどでの限定的な位置づけに留まっているのが現状だ。

マツエセラピーの開発者である松栄さんは、民間フィットネスクラブ事業会社の取締役を務めた経験をもとに、運動療法や予防医療としてのフィットネスクラブをマーケティングしていく方法についても、提案をはじめている。

2022年8月に、ティップネス丸の内スタイル内に、治療院「ICR-Lメディカルコンディショニングセンター」を開設。10坪程度のスペースに、マッサージベッドを2台置き、鍼灸マッサージ師の資格保持者トレーナーと、日本代表のサッカー選手の専属パーソナルトレーナーを務めるトレーナーによるサービスを一般より少し高い程度の価格で提供し始めている。

また、グループエクササイズとしては、「VIM体操」という60分程度、グループで行えるエクササイズがあり、関節可動域を適切に確保するとともに、各関節の動きを安定させる筋肉にスイッチを入れる内容で、全身の動きが調整できる。

さらに、「マツエセラピー」の基本理論を理解することで、ジムエリアでのセルフトレーニングも、予防医療や運動療法として提供できることになる。フィットネスクラブにあるマシンや、自重やフリーウェイトでの、スクワットやランジなどの基本トレーニングも、多裂筋や腹横筋、内腹斜筋などのいわゆる安定化機構の使い方に焦点を当て、重量やスピードなどをガイドすることで、身体機能の維持向上に繋げられる。

「フィットネスクラブの場合、マツエセラピーで治療レベルまで対処できる人が1人いれば、そのクラブのプログラムを、予防医療や運動療法として活用することが可能になります。特別なマシンやスペースも要らず、バランスパッドや簡単なツールだけで治療が可能で、症状が改善すれば、スタジオやプールのプログラムも、有効に活用できます。初心者のスタッフでも、案内や指導が可能です。大きな投資をせずとも、クラブの市場ポジショニングを変え、新たな戦略がとれることになります」

「フィットネスで、障害や痛みが治る」を常識にする

運動療法や予防医療としてのフィットネスやトレーニングが、スポーツ医科学の分野で注目され始めているものの、その位置づけでのフィットネス市場を伸ばしていくには、フィットネスクラブの経営者や運営者が、「運動で、障害や痛みが治る」ことを認知し、理解することがまず重要だと松栄さんは指摘する。

これまでマツエセラピーを導入している事業者は、医療機関や治療院、デイケアセンターなど、痛みを持つ方が訪れる施設が中心だが、そうした施設でさえ、まずスタッフの方々に体験会を実施し、「治らないと思っていた痛みが、なくなる」ことを体験することから始めるという。「運動で治る」という認知を、業界関係者からまず浸透させることが必要だ。

「これまでフィットネスクラブは、『元気な人を、より元気に』というイメージが強く、性能の高いトレーニングマシンに投資してきていますが、『痛みを持つ人を、痛みのない機能的な身体に』というコンセプトで、人材に投資し、その体験価値を提供していくことが重要です。

フィットネス参加率を高める鍵もここにあると思います。クラブの収益が安定することで、高い専門性を持ったトレーナーを採用して、価値の高いサービスで単価を高めることもでき、収益性も高められます。まず、経営者や運営者が、運動療法の可能性を認識して、戦略的に人に投資をしていくことで、フィットネスの市場規模はまだまだ拡大できるはずです」