行動経済学の基本を理解するとともに、フィットネスクラブ経営に役立てる方法について紹介する本連載。前回までは、人の行動決定のプロセスにある「ヒューリスティック」について紹介してきた。今回は行動経済学の代名詞とも言える『プロスペクト理論』について説明する。
■不確実な選択を迫られたとき、人はどんな行動をとる?
人は日々の生活の中で、たくさんの選択をし、行動をしている。これまで紹介してきたヒューリスティックは、この行動決定をオートマティックにし、脳への負担を軽減するものだ。日常の生活であれば、大体のことは、自分の意思決定どおりになる。ラーメンを頼んだのに、ハンバーグが出てくることは基本的にはない。
ただ、投資やギャンブルのような不確実性の高いものにおいては、必ずしも自分の意思通りになるとは限らない。こういった損得が発生するような状況で、人がどのような行動をとるのかを説明したのが、『プロスペクト理論』である。プロスペクト理論を提唱したダニエル・カーネマンは2002年に、この理論を提唱した功績によって、ノーベル賞を受賞している。
プロスペクト理論は、図のとおり「前処理」「価値関数による評価」「加重関数による評価」の3つのステップに分かれる。本記事では、編集段階にあたる「前処理」の部分について詳しく説明していく。
■人は無意識に“自分基準”を設けている?
ここで、あるシチュエーションを紹介する。読者の皆さんも考えてみて欲しい。
あなたの部署では、売上目標を達成したことを祝し、臨時の特別ボーナスが付与されることになった。このボーナスの価格は、全社員一律の金額で、振り込まれるまで金額を知ることはできない。となりの席の山田君は、新しいゴルフクラブを買うと意気揚々である。経理の田中さんは、ランチにお弁当を食べながら、旅行サイトから目を離さない。あなたも、特別ボーナスがいくらなのか、期待に胸をふくらましている。
臨時特別ボーナスの振込の日、あなたは銀行に行き、通帳に記帳する。そこに記されていた金額は、3万円。
さて、あなたはこの金額に対してどう感じただろうか? 高いと感じる人もいるし、「え、たったそれだけ