行動経済学の基本を理解するとともに、フィットネスクラブ経営に役立てる方法について紹介する本連載。前回は行動経済学の代名詞とも言える『プロスペクト理論』について説明した。今回は、行動経済学を使い、人々の行動を良い方向へ導く『ナッジ理論(以下、ナッジ)』について、その概念や活用事例などを紹介する。

■自由主義と介入主義の共存?

行動経済学とは、人間の経済行動の仕組みを理解し、様々な経済現象を明らかにする学問である。これまで多くの行動経済学者が、人間の不合理な行動や選択について、明らかにしてきた。現在、行動経済学を学ぶうえで注目されている理論がある。それが『ナッジ』だ。行動経済学上において、人間は不合理な行動を起こすことは避けられないということが前提であれば、それを活用し、社会全体を良い方向に導こうという考え方がナッジである。

このナッジを理解するうえで、重要となるのが、Libertarian Paternalism(リバタリアン・パターナリズム:自由主義的介入主義)である。脳内に?が浮かんだ方もいるだろうか。この一見、矛盾を抱えている概念から生まれたものがナッジである。

このリバタリアン・パターナリズムは、ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーと、キャス・サンスティーンによって提唱された造語である。人間は本来自由に生きるべきだというリバタリアニズム(自由主義)と、様々な方向から介入を施し良い方向に導くべきだというパターナリズム(介入主義)を組み合わせている。やはりどっちなんだ?という声が聞こえてきそうだが、セイラーらは、この両者が成立するもの、つまり「人間が自由に選択をしていると思うように介入する」ものがナッジであると提唱している。

完全合理主義の経済学上では、人間の自由意思は最大限尊重されるべきであるとしている。なぜなら、経済学上での人間は、間違いをおかすことなく、合理的な選択と行動をし続ける生き物だからである。しかし、本連載で紹介している通り、人間は様々な状況において