行動経済学の基本を理解するとともに、フィットネスクラブ経営に役立てる方法について紹介する本連載。前回は行動経済学における『ナッジ理論』について、説明した。今回は、人の行動決定に重要な役割をもたらす『利他性』について説明する。
■人は、他人のために行動を選択する?
これまで本連載では、行動経済学は、人間が起こす不合理な行動を説明する学問として、様々な事例を紹介してきた。伝統的な経済学では、人は自分の利益を最大化するための行動を選択するものとして扱われている。しかし、行動経済学上では、「人は、自分にとっての利益を目指さない行動を起こす」というふうに言われている。これを「利他的行動」と呼び、日常生活や社会活動で、しばしば見られている。
この利他的行動の典型的な事例が、寄付行為である。テレビ番組などで、海外の悲惨な災害や病気の子どものドキュメンタリーが流れれば、かなりの寄付金が集まる。コンビニやスーパーのレジの横にある募金箱にも、たくさんのお金が入れられているのを見たことがない人はいないだろう。これらの寄付行為は、多くの場合が匿名で行われ、寄付を行った当人には何も見返りはない。にもかかわらず、人は、知らない赤の他人のためにも、お金を払うのである。
■本当に自己利益を最大化するのか?
なぜ、人はこのように、自分の利益にならない行動を起こすのだろうか? かつて多くの経済学者の定説を覆した最後通牒ゲームという実験がある。この最後通牒ゲームでは、2人1組となり、片方の人には1,000円が「ペアの人と分配することを条件」として渡される。1,000円を渡された人は、ペアに対し分配する金額を提案し、提案が認められれば、分配する金額を得ることができる。提案を受ける側は、提案を断る権利を持ち、断れば、その1,000円は没収され、2人とも0円となるというゲームである。
さて、あなただったら、いくらを相手に提示するだろうか?また、いくらであれば提案を受け入れるだろうか? 経済学上では、提案をする側は自己利益を最大にする999円を提示し、提案を受ける側も、例え1円でも自分の利益になるため、受け入れることが定説であった。しかし、結果として、