総合型業態で結果を出すための経営戦略

神奈川県茅ケ崎市に本社をおく株式会社林水泳教室(以下、林水泳教室)が、「フィットネスの民主主義の実現」を掲げ、コロナ禍にオープンした「HAYASHIフィットネス&スパリゾート24平和台(以下、平和台)」(Fitness Business通巻123号参照)が、2023年9月にオープン1周年を迎える。業績回復に向けて、苦戦を強いられている多くの総合型業態の中で、好集客を実現し、成功事例の1つとなっている。

  • 株式会社林水泳教室
    執行役員開発本部長
    吉永大介氏
     

第2創業期の一手目は成功 フィットネスの民主化に寄与

1967年に創業され、子ども向けのスイミングスクールや体操教室を主な事業としている林水泳教室。

2020年を第2創業期と定め、これまでフィットネスクラブ各社で開発責任者を歴任した吉永大介氏が執行役員開発本部長としてジョイン。新規出店活動を本格的にスタートした。

その大きな一歩としてオープンしたのが平和台だ。業界の中でも、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた総合型フィットネスクラブとしてオープンしたが、グランドオープン前から、目標会員数を達成するほどの好調ぶりを見せ、1年が経過した現在では、在籍会員数が4,000人を超えている。

吉永氏は、「平和台のクラブ理念は『フィットネスの民主主義の実現』です。これは、生活者の経済状態によって、フィットネスクラブへ参加したいと希望する方が諦めず、クラブに通うことができる世界の実現を意味しています。生涯追及すべきロマンとして、バリュープライスでフィットネスクラブライフを多くの方に提供することがメインミッションです」と話す。

この言葉どおり、スタジオやスパも利用可能な総合型業態ながら、月会費はレギュラー会員でも月額8,448円(税込)と1万円を下回る。事実、経済的な理由で、フィットネスクラブに通いづらいと言われる20代の構成比率も、平和台では27%と、総合型業態では、突出して高い数値を示す。林水泳教室の目指す「フィットネスの民主主義」が、着々と実現されているのだ。

驚異の「退会率2.6%台」を達成
逆張りの経営施策が功を奏する
 

第2創業期の一手目として、上々のスタートを切った平和台。2023年9月にオープン1週年を迎えたが、1年目の最終月である2023年8月の退会率において、2.6%台を達成するという快挙を成し遂げた。

運営年数が長く、会員の年齢構成が高齢化し、かつ会員数が1,000~2,000名のレンジのクラブであれば、達成可能な数値とも言える(それでも稀なケース)かもしれない。しかし、平和台は、フィットネスクラブ会員数が4,000名を超え、20代の構成比率も高く、平均年齢43歳のクラブである。しかも、オープンしてまだ12ヶ月目だ。

この状況下での、退会率2.6%台の達成は、控えめに表現しても偉業であると言えよう。

「25年前から現在進行形で業界内に横行している、『低価格=高退会率・大量集客・新規入会重視モデル』『高価格=低退会率・既存顧客重視モデル』という、根拠が希薄なステレオタイプの見解と、その結果としての在籍会員数低下によって蔓延している総合型業態の限界論に楔を打てたのではないでしょうか」と吉永氏は語る。

一部で、“オワコン”と揶揄されることもある総合型業態だが、平和台のような成功事例も存在する。総合型クラブであることが問題なのではなく、総合型クラブとして、何をしているのかが、より重視されるようになったのだ。

林水泳教室は、昨今の総合型業態で主流となっている会費の値上げや、DXによるスタッフ数の削減などとは、真逆の経営戦略をとる。バリュープライスの月会費やスタッフ数の増員、ショップの撤廃、働きやすい労働環境の整備など、他社とは逆張りの経営をしている。2.6%台という退会率は、こうした施策が功を奏していることを認めざるを得ない数値だ。

「業界各社が、フィットネス参加率を上げることを目標に掲げていますが、現実は諸経費の高騰もあり、会費の値上げという真逆の取り組みをしています。生活の中でフィットネスに割ける金額を考えたときに、月会費が1万円以上の価格設定では、参加率を上げるのは難しいでしょう」

 
 

対象顧客を明確に定義
一貫性を持ったクラブ運営を

退会率を下げるためには、会員が、快適に利用できるクラブであることが必須条件だ。林水泳教室は、それを実現するため、自社の対象顧客を次のように明確に定義している。

  1. 自己責任意識を有する一般大衆
  2. 自己管理意識を有する一般大衆
  3. 他者に配慮ができる一般大衆
  4. スマホ・クレジットカード決済・web入会手続き等、日進月歩で進化するテクノロジーにキャッチアップする意欲と意思を有する一般大衆

対象顧客を決める際、ペルソナ設定や人口動態的なセグメンテーションを用いるクラブは多い。しかし、吉永氏は、「『自己責任意識』、『自己管理意識』を有し、『他者に配慮できる』一般大衆がターゲットです。すべての会員さまが快適に利用できるよう、入会時には、会員さまにも意識してもらえるよう誓約書にご署名いただいています」と言う。

もちろん、会員にがまんを強いるわけではない。会員からの意見に対しては、真摯に受け止め、スタッフがなるべく早く対応するように心がけている。

意図した成長の踊り場を作る
まずはスタッフを幸せに

水泳教室は、2023年7月、第2創業期で、2施設目となる24時間ジム業態「HAYASHIフィットネス24井土ヶ谷」をオープンした。こちらも平和台に続き、集客や運営も好調で、損益分岐点も優に超えている。

さらに、平和台のキッズスイミングスクールも、2km圏内に、5店舗のスイミングスクールが存在する超激戦区で、会員数1,000人を達成。競合他社が多い業態で、続々と好成績を生み出している。

これらの成功の最大の要因は何かを訊くと、吉永氏は一切迷うことなく「人」であると答える。

「会員さまを幸せにするには、まずはスタッフを幸せにしなければなりません。現在のクラブオペレーションの主流は、省人化一辺倒に傾いていますが、安易な省人化は、スタッフ疲弊させ、不幸にする可能性が高いことを、経営陣は絶対に忘れてはなりません

林水泳教室では、スタッフの労働環境の整備を徹底して行っている。「事業計画に意図した無駄を落とし込み、余裕をもった人員配置を行っています。スタッフが幸せでなければ、会員さまを幸せにできるはずなどありません。この業界では、長年やりがいの搾取が横行してきました。スタッフを大切にすることで、会員さまが良いサービスを受けることができる。それによってクラブに通い続け、結果として企業も潤う。オールハッピーなモデルを構築したいのです」と吉永氏は語る。

スタッフの教育にも余念がない林水泳教室。「意図した成長の踊り場」を作り、長期的な成長を見据えている。afterコロナで、事業の立て直しに、奔走するクラブが多いなか、林水泳教室はスタッフの活躍により、数々の成功事例を打ち出してきた。

専門性の高い施設も必要ですが、大多数の人々は、『何でも揃う』食品スーパーのような総合型のクラブを求めていると私は確信しています」

総合型クラブ受難の時代といわれる今日、茅ヶ崎発祥の林水泳教室が、新しい総合型業態の成功モデルを創り出していく。